名古屋高等裁判所 昭和24年(控)792号 判決 1949年10月31日
被告人
牧野定一
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金参拾万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金六百円を壱日に換算した期間同人を労役場に留置する。
司法警察官の押收に係る手拭地(ガラ紡タオル)千二百枚はこれを沒收する。
理由
原判示第一の手拭地(通称ガラ紡タオル)合計一万三千四百五十枚の不正讓渡については右手拭地がその後において所論告示の改廃によつて衣料品配給規則にいわゆる衣料品(指定纎維製品)から除外せられその結果もはや臨時物資需給調整法の適用を受けなくなつたことは所論(第二の四)の通りであるが、右事後における法令の改廃はその効力存続中になされた違反行爲の可罰性に毫も影響を及ぼさないことは臨時物資需給調整法の附則の趣旨に徴して明らかであるから被告人の右本件違反行爲に対しては右法令の改廃後においてもなお行爲時の法令に照してこれを処罰すべきものであつて、免訴の判決をすべきものとする所論は当らない。
次に原判示第二の手拭地(前同)千二百枚の不正所持についても右手拭地がその後において仮りにその統制價格に関する告示の改廃により價格統制から除外せられこれがため物價統制令の罰則の適用を受けなくなつたとしても、物價統制令並にこれが委任に基く告示は我が國終戰後の異常な社会経済事情に対処するための臨時的必要から制定された暫行的法令であるから右事情の変轉に伴いその改廃が行われたからとてためにその効力存続中になされた違反行爲につきその処罰價値が喪わるべき理由がなく被告人の右本件違反行爲に対しては右法令の改廃後においても前同様行爲時の法令に照らして処罰すべきものと解するを相当とするので、この点に関する所論も採るに足らない。
しかし本件につき職権をもつて調査するに原判決はその法令の適用を示すに当り罰金等臨時措置法第二條を適條として掲げておるが、原判決が認定した被告人の前示本件所爲は明らかに右罰金等臨時措置法の制定前の所犯に係るものであり從て同法の制定施行によつて右犯罪後の法律に因り刑の変更を來したものであるから刑法第六條に從い新旧両法を比照してその軽いものを適用すべきであるに拘らず右罰金等臨時措置法を適用するにおいては結局重い法律を適用する結果となることは殆ど説明を要しないところである。かくて同法條の適示は單なる誤記として看過し得ない擬律錯誤と認める外なく右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかなものであるから、この点において原判決は破棄を免かれないものとする。
以下省略