名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1138号 判決 1950年9月05日
被告人
竹内武
外一名
主文
原判決を破棄する。
被告人両名を各懲役四月に処する。
但し、被告人両名とも、本裁判確定の日から、参年間、右各刑の執行を猶予する。
押収してある証第一号日本刀一振、証第二号の十四年式拳銃一挺、証第三号の実包三発は、これを沒収する。
理由
弁護人大山幸夫、高井貫之、佐治良三の控訴趣意第一点について。
(イ) 本件起訴状の罰状には、銃砲等所持禁止令第一条第一項第二条が記載してあるだけで、同令施行規則第一条が記載してないことは、所論の通りであるが、同令施行規則第一条は、右禁止令第一条の銃砲等とは如何なるものを指称するかを定め、右施行規則と相俟つて、はじめて右禁止令が明白となるものであつて、罰条を記載するときには右施行規則をも併せて記載することが正当であることは、疑いがないが、右施行規則の記載がなくても起訴状の公訴事実において、右施行規則に定めてある通りの銃砲等に該当することが明らかにされているかぎり、被告人の防禦に不利益を生ずる虞がない。而して刑事訴訟法第二百五十六条第三項但書の罰条の記載の誤とは、罰条を間違えた場合だけでなく、罰条の記載が不備である場合も包含するものと解すべきものであつて、本件においては、右施行規則第一条の記載はないけれども、記載されている罰条と公訴事実と相俟つて被告人の防禦に不利益を生ぜしめたとは、解されないから、公訴の提起の効力には、影響がなく、従つて原審が公訴棄却の判決をせず、訴訟の実体に入つて審理し判決したのは、正当で、論旨は、理由がない。
弁護人鈴木匡の控訴趣意第一点について。
(ロ) 「職務のために所持する場合でなく、法定の除外事由がない」と云う消極的事実は、積極的に反対の事実が主張され立証されない限り、一応推定されているものと解すべく、従つて原判決がその挙示の証拠により、右消極的な事実のあつたことを認定したのは、正当で、論旨は理由がない。
(弁護人鈴木匡の控訴趣意)
第一点判決書によれば原審が認定した「罪となるべき事実」は「起訴状記載の公訴事実」ということになつて居るので同起訴状をみるに「被告人梶野八九生は法令に基き職務の為に所持する場合でなく且法定の除外事由がないのに拘らず許可を得ないで昭和二十三年九月中頃より同年十一月末頃迄の間十四年式拳銃一挺同実包五発を所持したもの」というにある。然し検察官が立証しようとした事実は記録二十五丁によれば、(イ)被告人梶野が十四年式拳銃一挺同実包五発所持して居た事実(ロ)右は正式許可がなかつた事実だけであつて右被告人が昭和二十三年九月当時職務のため所持して居たものでないことに付ては証明すべき事実として主張されて居ない。即ち犯罪構成要件である「法令に基き職務のために所持する場合」でなかつたことを証明するための証拠としては何等提出されて居ないものと見ることが出来る又一件記録によつても右の点については証明が充分とは云えないものと信ずる、果して然らば原審が認定した事実は証拠不十分であつて証拠に基かない判決ということになる。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)