名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1454号 判決 1950年11月15日
被告人
沖三郎
主文
原判決を破棄する。
本件を原審名古屋地方裁判所に差し戻す。
理由
弁護人武藤鹿三の控訴趣意第一点について。
所論のように原審第二回公判調書の記載によれば検察官が本件控訴事実立証のため他の証拠と共に(ハ)として検察官に対する被告人の供述調書四通の取調を請求し、又弁護人が本件取引に関し情状の点について証人野尻嘉七、同石田二郎の尋問を請求し裁判所は右各証拠の取調請求を全部採用した上、右証人野尻嘉七を尋問する以前に検察官に対する被告人の右供述調書四通の証拠調をしたことが明らかであり、且つ刑事訴訟法第三百一条に所論のように規定せられていることも亦明らかなところであるけれども、右証人野尻嘉七の尋問は右説示のように本件取引に関し情状の点について立証をするために弁護人によつて申請せられたものであつて刑事訴訟法第三百一条所定の犯罪事実に関する証拠とは解しがたく、此の点は記録上明らかなように原審における被告人の公訴事実の自白竝に所謂冐頭の陳述において被告人及び弁護人が立証すべき事項は別にない旨述べたことによつても十分に之を裏付けることができるので原審における右証拠の取調べについて所論のように刑事訴訟法第三百一条に違反した点を認めることはできない。仮に右の犯罪事実に関し情状の点についての証拠調の申請請求が所論のように犯罪事実並びにその情状の点についてなされたものと解するときは原審における右証拠の取調べには所論のように訴訟手続に法令の違反のあるものといわなければならないけれども、右説示のように原判示事実は被告人が原審において総べて之を自白しており、右証人野尻嘉七の尋問の請求は犯罪事実に関するよりは寧ろ情状の点に重きがおかれていたことが記録上明らかであつて右の法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはなしがたいので、結局本論旨は何れの点よりするも理由がないものとして之を採用することができない。
(註 本件は事実誤認、法令適用の誤により破棄差戻)