大判例

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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1803号 判決

まず本件につき職権をもつて審査するに、被告人に対し、(1)昭和二十五年一月二十三日附起訴状により「(一)被告人が医師でないのに昭和二十四年十二月六日頃より同二十五年一月十五日頃迄の間肩書自宅等において急性肺炎患者である大津芳雄の長女英子当一才を診療して医業を為し」た事実につき原裁判所に公訴が提起されたのであるが、次で(2)昭和二十五年六月二日附起訴状により同様」「(第八)被告人が医師でないのに昭和二十四年三月頃より同二十五年一月初頃に至る間右自宅等において食道癌患者である中辻奈良枝当五十一才を診療して医業を為し」た事実につき、更に(3)昭和二十五年六月二十日附追起訴状により同様「(第二)被告人が医師でないのに昭和二十四年三月頃より同十五年五月二十日頃迄の間右自宅において別紙犯罪事実明細表の通り荒川彌助二男守外十名を診療して医業を為し(該明細表添附)」た事実につきいずれも同裁判所に各公訴が提起されたことは記録上明らかであるところ、原審は右各起訴状並追起訴状記載の各公訴事実につき併合審理の上前記(1)(2)(3)の無免許医業の事実をその儘原判決に判示第四の(一)(二)(三)犯罪事実として(同上(三)につき別紙明細表添附)認定しこれに各医師法第十七条第三十一条第一号(第三十一条第一項第一号の誤と認む)を適用し併合罪として処断しておるが、医師法第十七条にいわゆる「医業」とは反覆継続の意思で医行為に従事するを謂うものと解すべく、従て同条の規定に違反してなされる無免許医業もその犯罪構成要件の性質上同種の行為の反覆が予想さるべきものであるから、その反覆して為された場合これら数個の行為は包括的に一個の犯罪としてこれを処断すべきものといわねばならぬ。しかるに被告人の右無免許医業の各行為は既にその前示期間、日時、患者数からみても引続き相接近して繰返されたことが明らかであり、反覆継続の意思で行われたものと観てもよいと思われ、またこの点に関する原判決挙示の証拠上からもそれが窺い得るのであるから、右は包括的に一個の犯罪として取扱うべきものといわざるを得ない。然らば右犯罪事実につき既にその本件公訴の提起において前記(2)(3)の起訴状によりなされた起訴手続は不適法のものというべく、しかるを原審が漫然審理して前示の如く判決をしたのは不法であつて、到底破棄を免かれない。

なお原判決が判示第三において被告人が同判示のように判示区役所吏員に対し虚偽の寄留届出の申告をし同吏員をして右区役所備付の寄留簿原本に不実の記載をなさしめたという事実を認定し、刑法第百五十七条第一項を適用して処断しているが、寄留簿は行政事務の施行を便にするため戸籍に関係なく単に各人の所在を明らかにする目的で本籍以外の住所又は居所を登録する公簿であつて、権利義務の得喪変更等の証明を目的とする公簿でないから刑法第百五十七条第一項にいわゆる権利義務に関する公正証書に該当せず、従て当該吏員に対し虚偽の申立をし寄留簿に不実の記入をさせた行為は同条の犯罪を構成しないものと解すべく、それで被告人の右所為が右原判示の如くである以上これにつき刑法第百五十七条第一項に該当する犯罪として処断したのは、擬律錯誤の違法あるものというべく、右は判決に影響を及ぼすことが明らかな違法であるから、この点においても原判決は破棄を免がれない。

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