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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1812号 判決 1950年12月12日

被告人

金点正

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役参月及罰金五万円に処する。

右罰金を完納しないときは金五百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収に係る大桶弍個、一斗壜参本、壱升壜弍本、蒸溜器壱組、漏斗壱個、バケツ一個、濾過器壱個、シリンダー壱本、酒精器壱本、焼酎壱斗、もろみ全部は之を没収する。

原審に於ける訴訟費用は総て被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意について。

(イ)  依つて按ずるに起訴状の記載に依れば「被告人は昭和二十四年十二月中頃云々米麹四、五升、小麦粉約二貫匁、水約一斗二升を原料として大桶一個に仕込み醗酵させて醪約二斗を造り同月二十日頃これを蒸溜して焼酎一斗五升七合を製造し」と記載せられてあつて、其文意から看れば右醪の製造は明らかに焼酎製造の手段と解すべきものであるに不拘、原判決書の記載に依れば、原審は右醪の製造と焼酌の製造とを各独立の犯罪と認定して併合罪の規定を適用してあるから、右醪の製造については審判の請求を受けない事件について判決をした違法がある。

(ロ)  次に量刑の点に就て按ずるに、元来酒税法は取締法規であるからこれが違反に対する科刑は主として脱税額の多寡によつて量定せらるべきであつて、被告人の主観的事情や犯罪の目的並手段の如きは単に傍証的な事情として参酌せられるに過ぎないものであるが而も其手段が悪辣で危険性大なる場合は量刑に当つても相当影響する事情であると謂はなければならない。之を本件に就て看るに後記説示の通り本件の密造額は焼酎一斗五升七合、醪一石二斗であつて、この税額も三万三千余円に上るのであるが、原審に於て取調べた大蔵事務官作成の臨検捜索顛末書及同官の被告人に対する質問顛末書(第一、二回)の記載に依れば本件の犯行現場は人里離れた山林中の小屋内であつて而も被告人は犯行現場附近に於て豚を飼養して居り其飼料は焼酎のかすや残飯等であつたことが認められるから本件の焼酌製造は右養豚と一石二鳥の関係に於て計画せられたものと推定せられる。従つて検察官主張の通り被告人は此種の犯行を相当永続的に為さんとしたものであつたことが認められるから其危険性も極めて大きかつたものと謂はなければならない。此点について弁護人は本件の焼酎製造は被告人の生活難を打開する為めの養豚の便宜上為されたに過ぎず且つ主として自己の飲料に供する目的であつたと主張するが凡そ廉価な豚の飼料を得る目的を以て高価な米麹や小麦粉を使用し、また生活難に追はれながら自己の飲料たる焼酎を一斗五升余も製造し其使用をも為さぬ中、更に焼酎製造の目的で醪一石二斗も製造するが如きは吾人の常識上到底首肯し得ないところであるから弁護人の右主張は之を措信しない。即ち被告人は営利の目的を以て継続的意図の下に発覚し難い山中に於て焼酎の密造を為したものであつて而も其製造数量は前記の通り多額に上るのであるから此犯情に徴するときは弁護人主張の其余の諸事情を綜合考察しても被告人に対する原審の量刑は軽きに失するものと認めざるを得ない。依つて刑事訴訟法第三百七十八条第三号後段、第三百八十一条、第三百九十七条に則り原判決を破棄する。

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