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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)259号 判決 1950年5月16日

被告人

倉島鉄男

主文

本件控訴は之を棄却する。

当審に於ける未決勾留日数中六拾日を本刑に算入する。

理由

弁護人寺尾元実提出の控訴趣意書の要旨は

被告人が本件旅館に投宿したのは伊藤一平等と共に隠退蔵物資摘発の為であり、宿泊料も伊藤が引受けるからとの事であつたが伊藤からは仲々宿泊料を入れて呉れず被告人としては名古屋に於ける情報連絡者として動きがとれず日時を徒過する中検挙せられたものであつて積極的計画的な犯行とは認められないから前科の無い妻子ある被告人に対する原審の量刑は重きに失する。

と謂うにある。

依つて記録に基き審按するに司法警察員の被告人に対する供述調書及原審第二囘公判調書の各記載を綜合考察すると被告人は伊藤一平外数名と協力の上隠退蔵物資を進駐軍に摘発し其報酬を得る目的を以て本件大徳旅館に投宿したのであるが其際被告人には其宿泊料に充つるべき金銭の持合せなく且つ伊藤一平も被告人と共に右旅館に宿泊したことがあるが自己の宿泊料を支払つたのみで帰つて行つたのであるが被告人は確実に右伊藤が支弁して呉れるものと信じて宿泊を続けたものとは認められない。この事は原審第二囘公判調書中被告人の供述として宿泊料の支払に就ては何等確信なく請求を受ける都度二三日中に支払う旨申向けて宿泊を続けた旨の記載がある点に徴するも明である。凡そ具体的確実性の無い支払意思は其反面支払不能の予想を包含しておるものであるから結局未必の故意あるものと断定せざるを得ない。従つて被告人には詐欺の意思なく無罪であると謂う論旨は理由が無い。

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