名古屋高等裁判所 昭和25年(う)412号 判決 1950年4月22日
被告人
大前武二
主文
本件控訴を棄却する。
當審に於ける訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人笹岡龍太郞の控訴趣意第一点について。
判示差押処分が營業名義人である滯納者大前ゑつに対して爲されたものであることは、原判決挙示の証拠差押調書(記録一四丁)の記載と原審証人眞野淸の証言により明瞭である。而も右証拠によれば、高山税務署大藏事務官眞野淸は收税官吏として大前ゑつ方に於て同人に対する滯納処分として財産の差押を爲さんとしたが、ゑつは税金の事は判らないと云い、その交渉の衝に當つたのがゑつの夫なる被告人武二であつて、判示差押物件につきその所有者が何人であるかということを被告人にたづねたが、はつきりした返事がなかつたためゑつが商賣をしているから品物はゑつのものであると判定して判示差押処分を執行した事実が明らかである。さればその差押えられた物件が若し被告人の所有に屬するものであるならば被告人は國税徴收法第十四條により取戻を請求することが出來るのであるから、斯して差押が取消されない限りは收税官吏が滯納者に屬するものと判定して適法に爲した差押は法律上當然效力を有するものである。原判決が判示差押処分を有效なるものとして被告人の判示差押の標示をはぎ取つた所爲を刑法第九十六條の罪に問擬したのは相當である。所論は独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて到底採用出來ない。
(弁護人笹岡龍太郞の控訴趣意第一点)
原審判決では被告人の責任であるとして懲役三月の言渡を爲したのであるが原審に於て被告人に対して実施せられた高山税務署の強制執行は違法のもので無效である旨を主張し從つて被告人は無罪を主張しているのである即ち本件差押処分が被告に対して爲されたものであるなれば強制執行の対照を誤つたものであり其の執行処分は勿論無效のものである。此点に関し証人大前ゑつは飮食店營業は私名義のものでありますと供述している。從つて營業所得に対する課税の徴收のものであれば勿論その人的対照は妻ゑつでなければならない。それ以外の人に対する強制執行は憲法の精神からしてあり得ない訳である。此抗弁あるに拘わらず原告側は其の執行が適法なるものとして立証すべき責任あるに拘わらず何等その方法を講ずることなく差押調書により之を明にせられていない。之を看過してなされた原判決はやはり事実を誤認したものである。