名古屋高等裁判所 昭和25年(う)476号 判決 1950年5月08日
被告人
金村守一こと
金珍守
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役五月に処する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
弁護人谷忠治の控訴趣意第二点について。
一件記録によれば被告人は昭和二十四年十一月二十四日窃盗被疑事件(後、賍物運搬罪として起訴せらる)によつて適法に勾留せられていたのであるが該犯罪については、原審において無罪の判決言渡がありその判決が確定するに到つたことは所論の通りである。然しながらある犯罪の嫌疑を受けた事実が客観的に無罪であるにせよ苟くも一且適法な手続によつて勾留され且つその効力が法律上消滅せしめられ若くは停止せしめられない以上所謂未決の囚人であつて被告人が所論のように考えたことは刑法第三十八条第三項に所謂法律の不知に該当しこれを以て犯意の阻却即ち逃走罪の成立を阻却するものとはなし得ないのである。
同上第三点について。
原判決によれば原審が被告人の二囘の逃走未遂罪に対し懲役一年六月の刑を言い渡したのであるが右に述べたようにその勾留の原因となつていた賍物運搬罪については無罪の確定判決があつたのであつて被告人の行為が形式上逃走未遂罪に該当することはやむを得ないところではあるがその情状において十分斟酌すべき余地があり本件犯行の態様自体から観察しても原審の科刑重きに失するとなす論旨は理由ありとなさざるを得ない。
(弁護人谷忠治の控訴趣意第二点)
被告人は本件記録によれば始め賍物運搬罪の容疑により検挙起訴せられたが同事実は審理の結果其証明なきものとして無罪の判決を受けた斯く被告人は何等犯罪に関係なく無罪であるに不拘留置せられたが為め無智な被告人は留置せらるべき理由がないから之を逸脱するも何等違法にあらずとし同月二十三日津検察庁四日市支部に出頭した帰途逃走を企てたものであつて被告人本人は其際罪となるべき逃走を犯すとの違法の認識を欠くが故に本行為は犯罪を構成せざるものとして無罪たるべきものと信ず。