名古屋高等裁判所 昭和25年(う)539号 判決 1950年6月09日
被告人
荻原价郞
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年及び罰金五千円に処する。
右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
尚此の裁判が確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
次に論旨第一点について案ずるに。
原判決が所論のような証拠を挙示して所論のような贓物運搬並に寄藏の事実を認定していることは記録上明らかなところであり右贓物寄藏の事実によれば被告人は昭和二十四年十月十日頃より同年十一月十五日迄贓物であるコーヒー受皿千七十五枚をその物置に隱匿して寄藏したものと認められているけれども、原判決挙示の右証拠によれば被告人が寄藏したコーヒーの受皿は当初は千七十五枚であつたところ中途富田昇が原審相被告人の諒解の下に右の中百五十枚を持去つたためその後昭和二十四年十一月十五日頃迄の間被告人が寄藏していた数量は九百二十五枚にすぎなかつたことが所論の通り認められ従つて富田昇が右百五十枚を持去つた後の右期間に被告人が右九百二十五枚の外に更に百五十枚のコーヒーの受皿を寄藏していなかつた事実が明白であるのでこの点につき原判決は所論のように虚無の証拠により原判示事実を認定した訴訟手続上の違反があることが明らかではあるが、未だこの程度の瑕疵のみを以つてしては判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないので論旨は之を採用しない。尚原判決が示した罪となるべき事実によれば右コーヒーの受皿が果して如何なる贓物(何人が何時、何処で盜んだもの)であるかが所論のように客観的、具体的に判示せられていないけれども右の事実によれば被告人に原判示のように原審相被告人柳生宗吉より盜品であることを告げられ其の情を知りながらコーヒー受皿千七十五枚の運搬並に寄藏方の依賴を受け云々とあり右コーヒー受皿の贓物たることの表示としては右にて十分であつて所論のように詳説する必要はないものと解すべきにより此の点につき罪となるべき事実の表示が不備であるとの論旨は之を採用しない。
弁護人鈴木貢の控訴趣意第二点について。
原判決が被告人に関し前段説示のような罪となるべき事実を示し、所論のような法令の適用を示していることは記録上明らかなところであるが(イ)犯人が所論のように贓物を運搬し引続き之を寄藏した場合には当然贓物運搬及び寄藏の罪が成立し所論のように贓物の運搬又は寄藏の罪の一方のみが成立し他方は成立しないものと解することはできない。勿論窃盜犯人が盜取した贓物を運搬することはいわゆる処分行為であつて何等贓物運搬の罪を構成しないけれどもこの窃盜犯人の依賴を受けて贓物の寄藏をする者が窃盜犯人と一諸に之を運搬しても贓物運搬罪は成立しないということはできないので被告人につき本件贓物運搬罪の成立を認めるのは妥当でないとの論旨は之を採用しない。
(ロ)然しながら原判決が右説示のように窃盜罪と共に贓物運搬及び寄藏の罪を示し之に対し刑法第二百三十五条第六十条第二百五十六条第二項、第四十五条第四十七条第十条第四十八条第二項を適用して被告人に対し懲役一年及び罰金五千円の刑を科しているけれども所論のように右法令の適用のみによつては金二千円を超えた罰金刑を科することはできなく、本件贓物運搬同寄藏の罪については右法令の外に尚罰金等臨時措置法第二条第三条の適用のあることが明らかであつて原判決が所論のようにこの法律の適用を遺脱しながら右のように金二千円を超えた罰金五千円の刑を科したのは明らかに法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるので刑事訴訟法第三百八十条、第三百九十七条により原判決は破棄を免れない。