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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)938号 判決 1950年8月30日

被告人

岩田春治

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人中沢信雄の控訴趣意について。

仍て按ずるに原判決によれば、原審は服部光孝の盜難被害届謄本、原審公判廷における証人朴重喜及び同酒井武逸の各種証言並びに被告人の供述、司法警察員及び検察官に対する被告人の各供述調書を綜合して被告人は昭和二十四年九月十五日頃木原一郎こと朴重喜から同人が窃取した服部光孝所有の中古自転車一台の売却方を依頼せられ、その賍品たるの情を知りながら愛知縣中島郡今伊勢町大字馬寄字東屋敷三十七番地川井清次郎方において同人に対し、代金五千二百円にて売却して以て賍物牙保をなした事実を認定したものであり、右原審挙示の証拠によればその判示事実はこれを優に認め得るところである。而し右挙示の証拠中知情の点を認定し得るのは被告人の司法警察員及び検察官に対する供述調書であり、論旨は右における各供述は何れも誘導乃至強制に基き被告人の任意にいずるものでないと主張するところであるが、凡そ供述に任意性があるとするには必ずしも徹頭徹尾自発的になされたことを要するものでなく仮令当初は否認の供述であつてもその供述に関する矛盾や曖昧な点の弁解ができぬようになつて自白するに到つた場合、その他自白が外部からの不当不法な圧力に基くものでない限り任意性ありとするに差支えないと解すべきであつて、論旨指摘の事情からは直に被告人の供述に任意性なしと断定し難く却つて検察官に対する供述調書によれば、被告人がその売却依頼者の朴重喜が金を性急に欲しがる態度等から賍品でないかと推察した事情を積極的に陳述していることや又原審公判廷における証人酒井武逸の証言によつても検察官に対する供述は任意にされたものと認め得るし、更に検察官に対する供述調書と同一趣旨の供述に帰着する司法警察員に対する供述調書も特段の事情がないのであるから同じく任意の供述と推定せざるを得ない。即ち原審の認定は適法な証拠に基くものであり、一件記録中右認定に誤があるとすべき資料も存しないから論旨は採用し難い。

(弁護人中沢信雄の控訴趣意)

(前略)次に検察官に対する被告人の供述は前述同様誤れる推理に基くことは二度も持つて来たので、との供述で明らかなる外、その他はどんな自転車とも言わず名前もなく早く金が欲しい、等あるが事実に反し、且つ具体性なく又きまり文句であり、

被告人は法廷で「検事さんが賍物と思わなかつたかと申すので成程ソーカナーと思つたので知つていたような風をしていたら検察官の方で勝手に書いた」と供述し、

一方右調書作成に立会した事務官酒井武逸は結局「被告人は初めはゴタゴタ否認していましたが、最後に調書にある様に認めました」と供述し

被告人の弁解が全く採用されず押問答の最後被告が沈黙するのやむなきに至つた際調書が一方的に作られ仕方なく署名した事が判る。(後略)

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