大判例

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名古屋高等裁判所 昭和26年(う)1569号 判決

本件記録を精査し原審公判調査中の被告人の供述、原審第一、二回検証調書原審証人渡辺ふみ子、同栗田谷子、同保田とし子、同大前已之助、同藤井明の各証人尋問調書中の供述記載、を検討し更に当審における検証調書、及証人渡辺ふみ子、同栗田谷子、同保田とし子、同大前已之助の各証人尋問調書の供述記載を彼是綜合すれば、被告人は論旨摘録の日時場所において所論の如き丸太を満載した貨物自動車に積載された丸太を運転手藤井明、人夫大前已之助と三名協力して地上に落下せしめる作業に着手したのであるが、是より先右自動車が工場前の狭い道路を東進し工場前にてバツクして車体を工場前空地に停車せしめる前後を通じ自動車に好奇心を抱き近隣の後藤光利(当三才)を含む幼児四、五名が車体に接近するのを認め、被告人及運転手藤井明において「危いから退け退け」と怒号して車体附近に螺集した右幼児等を追払い、その為幼児等が車体前端より南方約五、六米離れた地点の畑附近に去つたのを確め被告人は車体後方地上に立ち、藤井明は車体上前方荷台上の荷物の上に、人夫大前已之助は車体上荷物の後部にそれぞれ位置し先づ杉丸太二本を車体の東側に落下せしめ更に車体の省略中央の最上部に縦に載せてあつた未口七寸、長さ三間の松丸太を右中央部から西側に横転させ車体西側に落下せしむるに先ち車上にいた藤井明は再び車体に接近せんとする右幼児等を車上より声をかけ追払い、被告人は車体後方地上において車体の西側に顔を出しその前方を眺め人影のなき事実を確認し「よし」と合図の声をかけその儘車上の二名と地上の被告人と協力して右松丸太を横転させその儘車体西側面より勢をつけ地上に抛出したところ偶々その丸太の尖端がその場に来合せた前記後藤光利の後頭部に衝り同人をしてその場に即死するに至らしめた事実、及その際近隣の主婦、渡辺ふみ子、栗田谷子等が自動車に接近する幼児の危険を案じて、附近に立出で自分の子供を避難せしめその附近にて立話をしていたのであるから同人等に依頼し、幼児等の監視を特に依頼する事が出来たと考えられる事実を肯認するに足る。而してかかる場合、かかる作業を為す責任者は如何なる注意を要するやの点につき案ずるに、凡そ幼児等が自動車に好奇心を持ち疾走する自動車に追随して駈け或は停車した車体に接近してその一部に触れたり眺めたりして喜ぶ習性を有することは何人も容易に之を首肯するところである。本件の場合においてもその例に洩れず前記自動車が工場に入る前から幼児数名が車体に接近するのを認め、被告人等において怒号して追払ふ程度の注意を払つた事は認められるけれども、幼児の通性に鑑み怒号して迫払つた程度ではその効果は極めて弱く、智能の低い幼児等は身の危険を虞る思慮に欠け何時如何なる心境の下に車体に接近するやも図られぬ事を察知し、予め児童等を全く危険なき位置に隔離するか、荷却作業の為危険ある地域に幼児が立入ることの出来ぬ様適宜の措置例えば応急的に適当な繩張り柵等を設けるとか、近隣の人に依頼して十分な監視の措置を執らせる等の処置を講じた上完全に事故発生の危険を防止する措置を講じた上荷卸に着手する位の注意を要するものと解するのが相当である。而して荷卸作業等の如きは一回の作業のみを以て終了するものではなく断続して同種の作業を繰返す性質の作業であるから予め前叙の如き措置を講じた丈では未だ足れりとせず、更にその作業の継続中その責任者は常に幼児等の位置動作を注視し堪えず幼児等の接近による事故発生の危険を防止する様注意する義務があるものと謂わなければならない。然るに被告人は前段説明の通り只幼児等が車体に接近するのを認め怒号して之を追払ふ程度の注意を払つた丈で幼児の接近を阻止するに足る適宜の手段を講ぜず、更に愈々松丸太を落下せしむるに先ち車体後方より車体の西側に僅に顔を出し前方地上を眺めて人影なきを確めた丈で車上中央の丸太を西側に横転せしめ、右丸太を車体西側端まで横転させた際一旦作業を停止して人影の有無を確認する等の注意を怠り慢然危険なきものと軽信し因て論旨摘録の如く後藤光利を死に至らしめたのは一に被告人が上記説明の如き注意義務を怠つた為生じた結果であると謂わなければならない。従つて原判決は注意義務の解釈を誤り延いて有罪となるべき事実を無罪とした事実誤認の違法があると謂ふの外なくこの点論旨は理由があるので原判決は破棄を免れない。

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