名古屋高等裁判所 昭和26年(う)973号 判決
訴訟記録を精査すると原審は所論の如き窃盗の訴因罰条を記載した起訴状を受理し第一回公判期日において検察官は右起訴状を朗読し原審はこの事実につき証拠調を為し更に第二回公判期日において検察官は口頭を以て右起訴状の訴因に対し、訴因並罰条の変更を請求し起訴状記載の訴因を贓物牙保に罪名窃盗を贓物牙保に、罰条を刑法第二百五十六条に、それぞれ予備的に訴因、罰条の変更を請求しこの請求に対し原審弁護人は異議なき旨陳述し、裁判官はこの変更の請求を許可する旨を告げて審理を進めた結果、この予備的訴因の事実を認定して所論の刑を科したこと及、裁判官は前記の如く検察官の口頭による予備的訴因及罰条の変更を許可する旨告げた丈で被告人に対し、事実に関する質問に移り右変更にかかる予備的訴因並罰条につき検察官が之を陳述した事跡もなく又裁判官は被告人に対し黙秘権の告知もなさず、且被告人及弁護人の之に対する陳述を聴いた旨の記載もない事が明白である、而して公判期日における訴訟手続は独り公判調書のみによつて証明せられることは法文上明白であるから右公判期日における訴訟手続は右調書記載の通り運営せられたものと認めざるを得ない、もともと訴因罰条の変更は被告人の防禦権の行使に重大な影響があることは勿論であるから予備的訴因も亦出来る丈日時場所方法を以て具体的に特定することを要すると共に、追加又は変更にかかる訴因についても刑事訴訟規則第二百九条においてその手続を規定し訴因又は罰条の追加変更等は起訴状の場合におけると同様原則として書面を以てすることを定め又裁判所はその謄本を被告人に送達することを要するものとし只例外とし被告人在廷の法廷においてのみ口頭による訴因罰条の追加変更等を許すことが出来るものとしたのであるがこれは只口頭による訴因、罰条の変更を許すことを許されておるに過ぎず、その他の敍上の手続の省略を許容されたものと解する事は出来ない、従つて口頭による訴因罰条の変更の場合でも刑事訴訟法第二百五十六条の規定の適用上、訴因罰条の特定その他公判手続に於て要請されておる手続即訴因の特定検察官の公訴事実の陳述、黙秘権の告知、公訴事実に対する被告人及弁護人の陳述の機会の付与等の手続の省略を許されているものではないから原審が敍上の如き手続を履践せず慢然前記の如き不特定な予備的訴因の変更を許し之を採つて有罪の認定をしたのは明にその訴訟手続に法令の違背があるものと謂はなければならない、併し乍ら飜つて所論の如くこれを以て不告不理の原則に反するや否やにつき審究するに兎も角検察官は被告人在廷の公判廷に於て訴因及罰条の変更を請求し原審弁護人は之に対し異議なき旨陳述し裁判官はこの請求を許可している事実から観察すれば右予備的訴因につき検察官は審判の請求を為す意図があつた事は明白であるから之を以つて刑事訴訟法第三百七十八条第三号末段の審判の請求を受けない事件について原審が判決をした場合に該当するものとは云えず、同法第三百七十九条所定の訴訟手続に法令の違背があつた場合に該当するものと認むべきである、然らば前敍各法令違背が判決に影響を及ぼすや否やにつき進んで考究するに、前記第二回公判調書の記載によれば弁護人は検察官の予備的訴因、罰条の変更に異議なき旨陳述し被告人は裁判官の質問に答えて詳細なる事実に関する供述をしていることが明白であり毫も前記の如き訴訟手続に異議を述べた形跡はなく、更に原判決が引用した証拠の内容を検討すれば之を綜合して原判決認定の犯罪事実を認むるに十分であるから結局右の如き訴訟手続の違背は判決に影響を及ぼさないものと認めざるを得ない、従つて結局この論旨はその理由がない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)