大判例

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名古屋高等裁判所 昭和26年(ナ)5号 判決

原告 大河内峯雄 外三名

被告 愛知県選挙管理委員会

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等代理人は「被告委員会が原告の四名及び訴外坂福彦からした当選の効力に関する訴願に対し昭和二十六年六月十九日した裁決はこれを取消す。

同年四月二十三日施行された名古屋市議会議員一般選挙における同市中区選挙区の当選人宮田一雄の当選は無効であつて次点者谷田育彦の当選を確認する。訴訟費用は被告委員会の負担とする。」との判決を求めその請求原因として左のとおり述べた。

原告等は昭和二十六年四月二十三日施行せられた名古屋市議会議員一般選挙における同市中区選挙区の選挙人であるところ右選挙に際し同市中区選挙区の選挙会においては同区の最下位当選者を宮田一雄(得票数三千二百三十八票)次点者を谷田育彦(得票数三千二百三十四票)と定めた。しかし原告等外一名は宮田一雄の当選の効力に関し異議ありとして同年五月一日名古屋市選挙管理委員会に対し異議の申立をしたところ同委員会はこれを棄却する旨の決定をしたのでさらに被告委員会に対し訴願をしたところ被告委員会においては原告等の訴願の理由を容認しないばかりか却つて本件選挙会において無効投票に計上した投票の内から後記の検乙一及び二の二票をも宮田一雄の有効得票と認め結局同人の有効得票を選挙会の判定よりさらに二票を加えた合計三千二百四十票と認定して同年六月十九日付を以て訴願を棄却する旨の裁決をなし該裁決は同日原告等に送達された。

しかしながら宮田一雄の有効得票に算入せられた左記検甲十五票及び検乙二票はいずれも左記の理由によつて無効投票と信ずるからこれらを同人の有効得票と決した選挙会の判定及び被告委員会の裁決は違法たるを免れない。

以下右各票の無効なるゆえんを明にする。

検甲一乃至六はいずれもその氏の部分が候補者宮田一雄の氏とは全く異るし検甲七は、その名の部分が同候補者の名とは全く異る。しかるかぎり立候補制を採用しているとか、同候補者の氏名四文字中これらの投票がその三文字まで合致するとかいう理由で右各票は同候補者の氏名を誤記したものにすぎないと認めることは許されない。

のみならず検甲一の「田中一雄」と記載したと思はれる一票は中区選挙区内にこれに該当する田中一雄(中区南大津通四の一居住)なる実在人物が存する。

又検甲二の「岩田一雄」と記載したと思はれる一票は他の候補者の有力な運動員に岩田鈴吉(中区正木町四の五居住)なる人物が存する。

検甲三、四、五の「宮地一雄」と記載したと思はれる三票については宮田一雄と同一選挙区内に元市会議員「宮地太市」という有名人が存し本件選挙の際にも立候補する旨の新聞報道さえあつたしかつ有力な運動員であつた。

検甲六の「宮本一雄」と記載したと思はれる一票は同一選挙区内に「宮本」なる実在人が存する。

以上の事実からしてこれらの各票が宮田一雄への投票とみることはとうていできない。

検甲七の「宮田よしを」の一票については宮田一雄の名の部分と対比して字、音、字劃共に著しく異るからこれを以て「一雄」の誤記とは解しがたい。

次に検甲九乃至十六のいずれも「富田」と記載したと思はれる八票については中区選挙区の候補中に「富田」という氏の者はなく一方「田」の文字のつく氏の候補者に「岡田」「谷田」「宮田」の三者がある事実と同区の有力なる運動員に富田春吉(中区飴屋町三五居住)という者が実在する事実とに徴してこれらの票を宮田一雄への投票と認めることはできない。単に「富田」とのみ記載されている票は「富田一雄」と記載されている票と同様に論ずることはできないのである。現に仮名文字で「とみだ」と記載された票は本件選挙会においても無効投票として取扱はれているのであるから偶々漢字で「富田」と記載された票を宮田一雄の有効投票とするのは権衡を失するではないか。

なお投票所の投票記載机の上には中区選挙区の候補者の氏名を記載した一覧表(甲第五号証)を貼りつけ以て通常の読書能力を有する選挙人は投票せんとする候補者の氏名の記憶があやしいときは右一覧表によつてこれを確めることができるような仕組になつていたことを注目すべきである。以上の検甲各票はその筆蹟等からみて通常の読書能力を有する者と認められるからこれらの票を記載した者は右一覧表によつて候補者の氏名を確めた上これを記載したものと推定すべきである。

そうするとこれらの票は宮田一雄に投票したものではないというべきであり被告主張の如く誤記と認めることは誤りである。

これを要するに以上の十五票は結局候補者でない者の氏名を記載したものとしていずれも無効投票であると信ずる。

次に検乙一の「市カイ宮田一夫」と記載した票は他事記入として当然無効投票である。宮田一雄が本件選挙当時名古屋市議会議員であつたからと云つて同票における「市カイ」の文字が他事記入でなくなる理由はない。

又検乙二「シカタカ」と記載した票は「ミヤタカ」とは判読できない。これは候補者の何人を記載したかを確認しがたいものとして明かに無効投票である。

そうすると被告委員会が宮田一雄の有効得票と認めた三千二百四十票中には以上十七票の無効投票が存在するわけであるからこれをさしひくと宮田一雄の有効投票は三千二百二十三票となり明に次点者谷田育彦の得票三千二百三十四票より少ないのである。従て宮田一雄の当選は無効となり谷田育彦は当選となるべき筋合である。

よつて本件選挙会において宮田一雄を当選と決し、被告委員会が裁決においてこれを維持したことは共に違法であるから請求の趣旨のとおりの判決を求める次第である。(立証省略)

被告委員会代表者は主文第一項同旨の判決を求め答弁として左のとおり述べた。

本件選挙において原告等がその主張のとおりの選挙人であること本件選挙会においてその主張のとおり当落を決したこと、その主張のとおりの異議申立及び訴願がなされこれに対してそれぞれの主張のとおりの決定及び裁決がなされたこと並にその主張のとおりの一覧表が投票所の記載机の上に掲示されていたことはいずれもこれを認める。

しかし被告委員会の裁決にはなんらの違法がない。

すなわち検甲一乃至七の七票はいずれも候補者宮田一雄の誤記であり、検甲九乃至十六の八票はいずれも同候補者の氏「宮田」の誤記である。そして検乙一の「市カイ宮田一夫」の一票については本件選挙においては市長と市議会議員のいわゆる同時選挙であつたため両者を区別するために「市カイ」と記載したものと認められるしかつ本件選挙当時宮田一雄は名古屋市議会議員であつたから決して他事記入ではない。検乙二の「シカタカ」の一票は「ミヤタカ」と判読できるし「ズオ」の下二字を脱落したものと認められる。

以上の理由によつて叙上の票はすべて候補者宮田一雄の有効得票である。

よつて被告委員会が宮田一雄の有効得票を本件選挙会の判定(三千二百三十八票)よりさらに右検乙一及び二の二票を加えて合計三千二百四十票と認定したことは少しもまちがいでないから原告等の主張は理由なくその請求は排斥せらるべきものである。(立証省略)

三、理  由

昭和二十六年四月二十三日施行された名古屋市議会議員一般選挙において原告等が同市中区選挙区における選挙人であること、その選挙会において原告主張のとおりの得票数を以て当落の判定があつたこと原告等から宮田一雄の当選の効力に関し適法なる異議の申立及び訴願がなされこれに対し名古屋市選挙管理委員会及び被告委員会においてそれぞれその主張のとおりの決定及び裁決がなされたことはすべて当事者間に争がなく、本訴が適法の期間内に提起されたことは記録上明白である。

原告等は被告委員会の裁決は原告主張の各票についてその効力の判定を誤まつた違法があると主張し被告はこれを争うから以下その各票について逐次これをしらべる。

まず検甲一の票をみるに検証の結果によると明瞭にかつ相当ていねいに「田中一雄」と記載されており候補者宮田一雄を誤記したものと認めることはその記載自体に徴し行過ぎの譏りを免れないであろう。かつ本選挙区における候補者中に「田中」なる氏の者が存しないことは成立に争のない甲第五号証によつて明白であるから結局本票は候補者でない者の氏名を記載したものとして無効と解するを相当とする。

次に検証の結果によると検甲二の票は「岩田一雄」と記載されており、最初の一字は「岩」の字をくずしたものとみられ、検甲三、四、五の三票は明に「宮地一雄」と記載されているし、検甲六の票は「宮本一雄」と判読できるのであるが、本件選挙においては公知のように立候補制を採用していること及び本件選挙区の候補者中に「岩田」「宮地」「宮本」なる氏の者がいないこと、「一雄」なる名の者は宮田一雄の外にいないこと(このことは前記甲第五号証によつて明白)にかんがみるときはこれらの票はいずれも宮田一雄の誤記と解するを相当とする。

次に検甲七の票は検証の結果によると「宮田よしを」と記載されておりそれは「宮田よしを」と判読できるが本票は「宮田一雄」の名の部を「よしを」と読みちがえた上で記載したものすなわち誤記と認めるのを相当とする。

次に検甲九乃至十六の八票について検証の結果によるとその内検甲十及び十一を除いてその余の票は「富田」と字劃整然とは表示されていないがこれらの票も検甲十及び十一と同様一応「富田」と記載したものと認められないことはない。ところが前記の如く立候補制を採用していること及び候補者中に「富田」なる氏の者が存しないこと(このことは前記甲第五号証によつて明白)並にその「富」の字は「宮」の字に最も類似していることにかんがみかつ検証の結果により明なとおりこれらの票の筆蹟が概して幼稚であることに徴すれば「宮田一雄」の名を忘却したかもしくはこれを記載する能力なくしかも「宮」の字を書きまちがえたものと認めるのを相当とする。

原告主張のように同一選挙区内に以上の票に該当もしくは類似する実在の人物が存するとの一事は少しも以上のように認定することの妨げとはならない。

又本件投票所の投票記載机の上に候補者の氏名を記載した一覧表(甲第五号証)が掲示されていたことは当事者間に争のないところではあるが以上の各票を記載した者が右一覧表を読む能力があつたかどうかはしばらく措き右一覧表には相当多数の候補者の氏名が相当小さな活字で印刷されている事実にかんがみるときはそれが掲示されていたというだけではこれらの者が右一覧表について候補者の同一性を一々確めた上以上の各票を記載したものと推定すべき根拠に乏しくもとよりこのことを認めるに足りる証拠はない。よつてこの点に関する原告等の主張は採用しえない。

以上みたところによつて検甲二乃至七、及び九乃至十六の十四票はいずれも宮田一雄の有効得票と認める。

次に検乙一は検証の結果によると「市カイ宮田一夫」と記載されているが末字の「夫」は「雄」の字の誤記と認められる。そして公知のように本件選挙は市長と市議会議員のいわゆる同時選挙であつたからこの票中の「市カイ」とある部分は両者を区別するための記載であつて有意の記載とは認めがたい。従て本票は他事記入とすべきではなく宮田一雄の有効得票と認める。

最後に検乙二の票は検証の結果によるとかたかなで「ミヤタカ」と判読できる記載があり、その記載は投票用紙を逆にしてしかも欄外になされているのでありかつその字形運筆はきわめて拙劣であることが認められる。このことからして本票は無筆文盲に近い者の記載と推察せられるからこの票は候補者の何人を記載したかを確認しがたいものとするよりは「ミヤタカズオ」の末の二字「ズオ」の記載を断念したものと認めるのを相当とし、候補者宮田一雄に投票せんとした意思明白である。従つてこの票も宮田一雄の有効得票と認める。

以上みたところによつて明なとおり被告委員会が宮田一雄の有効得票と認めた三千二百四十票の内当裁判所が無効と認定したのは検甲一の一票だけであるからこの一票を右三千二百四十票からさしひくと宮田一雄の有効得票は三千二百三十九票となる。そしてこの得票数は次点者谷田育彦の得票数(三千二百三十四票)より多いこと明であるから被告委員会の裁決は結局違法ではなく、宮田一雄の当選はうごかないのである。

よつて原告等の本訴請求は失当として棄却すべきものとし民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島奨 白木伸 鈴木正路)

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