名古屋高等裁判所 昭和27年(う)548号 判決 1952年6月30日
控訴人 被告人 前田一郎
弁護人 三宅厚三
検察官 小西茂関与
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人三宅厚三の提出にかかる控訴趣意書における記載を引用する。検察官は本件控訴は理由のないものとしてその棄却の裁判を求めた。
論旨第一点(一)(三)(四)について案ずるに
昭和二十六年最高裁判所規則第十五号によつて改正せられ昭和二十七年二月一日から施行せられた刑事訴訟規則第四十四条は公判調書の必要的記載事項を限定し公判廷における訴訟手続の中右所定の事項は必ずこれを公判調書に記載しなければならないものとしていることが明らかであるが他面右所定の事項以外の訴訟手続にして通常行われるものについては公判調書にその記載のなされない故をもつて直ちにその履践せられなかつたものとなすことはできなく却つて特段の事由のない限りそれ等訴訟手続が適式になされたものと一応推定せられるものと解するのが正当である。
而して今これを本件についてみるに所説(一)の所謂冒頭陳述、同(三)の証拠書類の朗読、同(四)反証提出の機会供与等の点につき原審公判調書にそのなされた旨の記載を所説のように止めていないことは記録上明らかなところであるけれども論旨指摘の各公判調書は何れも右改正刑事訴訟規則の施行後のものに属することが記録上明らかに認められると共に右(一)(三)(四)の各訴訟手続は右刑事訴訟規則第四十四条所定の公判調書の必要的記載事項でないことが明らかであり且つ原審各公判調書における各記載に徴するもこれら訴訟手続に関し訴訟関係人より格別異議の述べられたような形迹も認められなくその他その手続の違法の覗われるような特段の事由も記録上認められないのでそれらの手続は右説示に徴し適法になされたものと推定するの外なく、所説のようにこれらの点につき訴訟手続上の法令違反の廉は認められないので論旨はこれを採用しない。
論旨第一点中其の他原審訴訟手続には幾多の法令違反がある旨の点について案ずるに
論旨は原審における訴訟手続における法令違反の点につき具体的に且つ適式にこれが指摘をしていないのでこれに判断を加えるに由なく結局同論旨は不適法なものとしてこれを採用しない。
原審における訴訟手続には所説のように法令違反の廉のあることが記録上認められるけれども右の違法は未だ判決に影響を及ぼすことが明らかなものとは認められないので論旨はこれを採用しない。
論旨第二点について案ずるに
原判決の挙示する証拠によれば原判示各事実を認定することができる。而して安藤辰吉及び被告人の各供述調書が所説のようにそれぞれ二通宛あることは記録上明らかであるけれども原判決はそれら各供述調書をそれぞれ二通宛挙示したものと認められるのでこの点についても原判決には所説のような訴訟手続における法令違反の廉はなく従つて原判決にはその採証の法則を誤つた廉は認められない。
これを要するに所説は事実審である原審が有する証拠の取捨判断に関する自由裁量権を独自の見解に基いて論難しているのに過ぎなく従つて原判決には所説のような事実誤謬の廉は認められないので論旨はこれを採用しない。
論旨第三点について案ずるに
本件犯行の態様及び記録上認められる被告人の各前科その他各段の事情を合せ考えるに所犯の情状がよろしくなく原判決が被告人に科した刑は相当と認められ論旨の諸点を斟酌してみても特に更に右の刑をこれ以上滅軽しなければならないような事由も格別認められないので論旨はこれを採用しない。
その外原判決を破棄しなければならない様な瑕疵も認められなく本件控訴は理由がないので刑事訴訟法第三百九十六条によつてこれを棄却すべきものとして主文のように判決する。
(裁判長判事 河野重貞 判事 山田市平 判事 小沢三朗)