名古屋高等裁判所 昭和27年(う)887号 判決
原判決によれば原審が論旨摘録の訴因に対して論旨摘録の理由によつて本件登録不申請罪の成立を昭和二十四年十一月一日迄と限定したことは所論の通りである。
依つて当審で適法に取調べた昭和二十四年十一月一日附法務府民事局民事甲第二四九一号(六)一五九号法務府民事法務長官法務府刑政長官連名の各都道府県知事宛の通牒(以下十一月一日附通牒と略称)の謄本によれば未登録の外国人から登録申請のあつたときは入国、出生、婚姻による外国人である身分の取得等のあらたな事由(原審の所謂例外事由)に基く場合を除いて登録申請を受理しないこと(同通牒第二項第一号)及び都道府県知事の退去命令又は退去の強制処分がなかつた場合に限り市区町村長は所轄検察庁からその旨の通知を待つて登録の申請を受理し登録証明書を発行すること(同上第四号)と各定められているが右から原審のように昭和二十二年勅令第二〇七号外国人登録今附則第二項により同令施行の際(昭和二十二年五月二日)現に日本に在留する外国人が同令施行の日から三十日以内に登録の申請をしなかつた場合にはその後所定の登録の申請をしても右十一月一日附通牒第二項第四号の検察庁からの通知がない限りは事実上受理されず従つて右通牒の日附たる昭和二十四年十一月一日以降には右のような例外事由のない外国人は登録申請の義務があつてもこれを履行することは事実上できないことになると論断し得られるか否かについて篤と検討する必要があると思われる。そこで登録申請の義務は所定要件を具備した申請をこれに対応する受領を待つ丈の状態換言すれば受付可能の状態に置けばその受付の拒否による登録事務取扱者の義務違背の責任は兎も角申請義務者はその不履行の責を免れこれによる不利益を負担せしめられるべき筋合でなく、従つてその申請の受付拒否によつて直ちに申請の義務を履行し得なくなるという訳でもないのであるが、その受付が予め拒否されているような場合においてその受付を目標とする申請手続を期待することは事実上困難であり申請義務者の立場からすれば申請義務の履行を不可能としてその受付が開始される迄申請を一応差控えることも強ち無理からぬことというべく右十一月一日附通牒の趣旨が原審の解する通りとすれば右通牒がその受付係へ到達した以後登録申請はこれがため事実上不可能な状態に陥り従つてそれ以後の申請遅滞を追究し得ないものとなさざるを得ないのであるが、斯のように登録申請を事実上不可能な状態とすることは日本在留の外国人をして可及的速かに又洩れなくその登録申請をなさしめんとする外国人登録令の趣旨に沿わないものとなさねばならない。而して凡そ通牒、訓令の類はその関係法令の実施についてその疑義を解明して末端における執務上の方針を与え以てその法令の実施を適正円滑ならしむべきものであり、その法令上の義務履行を阻止乃至困難ならしめるというような事は本来許さるべきものでないのであるから通牒、訓令は可能な限り当該法令の趣旨に沿うように解すべきであつて、若しこれと相矛盾する字句があつても輙くこれに泥することなくその通牒、訓令全休の精神から推考するは勿論これと相関連する通牒、訓令の内容と比照し或いは照会によつて回答を求むる等当該通牒、訓令の真意の捕捉に勉むべきものであるところ右十一月一日附通牒、第二項第一号に所謂受理しないこととあるのは一見原審の見解を支持しうるようでもあるがこれを同項第四号と綜合すればむしろ所謂例外事由のない場合の登録申請は一応その受付丈に留めて退去命令又は強制退去の処分のなされないことが確認されてからその受付以後登録証明書発行に到る処置を進行せしむべき趣旨と解することが可能且つ妥当であり又そのように解することが外国人登録令の精神にもよりよく合致するものと思われるし更に右十一月一日附通牒と相前後して発せられ、これと相関連する昭和二十四年四月三十日附法務府民事局民事甲第九七五号法務行政長官から又昭和二十四年十二月三日附法務府民事局甲第二七七二号(六)二三二号法務府民事長官からの各都道府県知事宛の通牒(以上いずれも当審においてその各謄本により証拠調済)と照合すれば右十一月一日附通牒第二項第一号に所謂受理しないこととある趣旨が前段説示の通り所謂例外事由のない場合の登録申請であつてもその受付はこれをなし退去命令又は強制退去の処分のなされないことが明確にされる迄その受付後の登録証明書発行に到る手続を一応停止して置くように指示した趣旨であることが一層明らかであるから所謂例外事由のない場合の登録申請であつてもその受付は拒否されないのでありその受付がなされることになつている以上登録申請義務者からいつてその申請が事実上不可能であるということは肯定し得ない、然し他面右十一月一日附通牒がその真意の表現において些か熟さないものがあつて原審をしてその真意の捕捉を誤らしめるに到つておることから考えて一般登録申請義務者としても同通牒について同様の誤解なかりしものとは保障し難いともいえるが該通牒はいわば内部的なものであつて一般に公示されているものでもなく且つ本件記録を精査しても被告人において昭和二十四年十一月一日以降猶その登録申請をなさざりしことが該通牒に由来するものとなすべき痕蹟は全然存しないのであるから該通牒の解釈の如何が被告人の罪責に消長を来すものとは認められない(尚登録不申請罪を継続犯とすることについては当審も原審と同見解である)。
以上説明のように原審は右十一月一日附通牒の趣旨を誤解し以て同通牒の日附たる昭和二十四年十一月一日以後の登録申請の義務履行が事実上不可能な状態にあつたものとしそれ以後の登録不申請について被告人に責任なしとしたことは判決に影響を及ぼすこと明かな事実誤認に基く結論である。