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名古屋高等裁判所 昭和28年(う)1023号 判決 1953年11月26日

控訴人 被告人 内山猶次郎

弁護人 福井正三

検察官 片岡平太

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告人及び弁護人福井正二の各控訴趣意書記載の通りであるから、いずれも、これを引用する。

弁護人の控訴趣意一について。

論旨は、昭和二十八年七月十一日附起訴状記載の公訴事実第二の事実は、被告人の自首にかかるものであるに拘わらず、原審がこれを自首と認定しなかつたのは違法であるというにある。よつて案ずるに、原判決は、被告人及び弁護人のこの点に関する主張に対し、法律上の自首と認め難いとして、その主張を採用しなかつたことは、原判決に判示する通りであるが、訴訟記録を調査するに、昭和二十八年六月三十日附被告人の司法警察員に対する自首調書によれば、弁護人主張の起訴状記載の公訴事実第二の事実即ち原判示第二の事実については、被告人の自首にかかるものであることが認められる。

もつとも、右事実については、被害者池谷弁蔵より、被害の直後である昭和二十七年十二月十七日、警察官署に被害届が提出されていることが明らかであるが、たとえ犯罪事実が既に官に発覚している場合でも、その犯人が何人であるかが未だ官に発覚しない前に、犯人が自己の犯行である旨を申告する場合には自首に該当するものと解すべきである。本件はまさにこの場合に該当する自首と認むべきもので、右認定を左右する証拠は記録上存在しない。従つて、原判決が法律上の自首と認め難いと判示したのは法律の解釈を誤り、延いて自首であることを誤認したものといわなければならない。

然し、自首減軽をすると否とは裁判所の裁量に属するところであり、原審が自首減軽をしなかつたとしても何等法令の適用に誤はなく、右誤認は判決に影響を及ぼさないので、論旨は採用できない。

弁護人の控訴趣意二及び被告人の控訴趣意について。

論旨は、原判決の刑の量定の不当を主張するものであるが、本件犯行の動機、態様、回数、被害額、前科、家庭の状況、その他諸般の事情を綜合すれば、原判決の刑の量定が重きに失するとはいわれない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条に則り、本件控訴を棄却し当審において国選弁護人に支給した訴訟費用は、同法第百八十一条第一項に従い、被告人に負担させることとし、主文の通り判決する。

(裁判長判事 河野重貞 判事 高橋嘉平 判事 山口正章)

弁護人福井正二の控訴趣意

一、原判決は法律の解釈を誤つた違法がある。被告人及弁護人は原審に於て被告人に対する昭和二十八年七月十一日附起訴状記載の第二の公訴事実に対し被告人は自首して居るので刑法第四十二条第一項による減軽あり度き旨主張した(原審公判調書)のに対し、其判決理由に於て「自首調書等に徴し法律上の自首と認め難いから之を採用しない」と判示し以つて被告人及弁護人の右主張を排斥したけれども記録中の自首調書によれば被告人は昭和二十八年六月三十日豊橋市警察署に出頭し司法警察員伊藤武利に対し口頭で前記起訴事実に付き自首し其の旨の調書が作成された事を認められる。而して其の後に於て共犯者稲垣昇の供述書が作成されて居る事から推して当時被告人が右犯罪を犯した者であることは未だ官に発覚し居らざりし事を知るに足りる。尤も被害者池谷弁蔵の被害届は昭和二十七年十二月十七日に提出されて居るので事実自体は当時すでに官に発覚して居つたと言えるが刑法第四十二条第一項の「罪を犯しまだ官に発覚せざる前」とは犯罪事実自体は発覚しても犯人の何人なるや未だ官に不明なる場合をも含むことは学説の認める所である。依つて前記被告人の行為は法律上の自首に該当するに不拘之を法律上の自首として判断せざりしは違法の判決と云わねばならない。

二、原判決は刑の量定甚だ不当である。被告人は甚だしく前非を悔い良心の叱責に堪え兼ねて遂に自首し凡てを清算して生れ変つた更正の第一歩を踏み出す決意を固めて居ることは被告人に対する警察員作成の各供述書にあふれて居る。斯くの如き被告人に対しては出来得る限り寛大な判決によつて本当に真面目な社会の一員に立返らしむる事が妥当であると思料します。依つて二年の懲役は重きに失するので破毀の上更に減刑相成度し。

被告人内山猶次郎の控訴趣意

被告人に対する原審の刑の量定は不当である。本件の公訴事実は、被告人の元より認めて居るところであるが、被告人は今迄に数犯を重ね最後に昭和二十六年十月二十二日に仙台で釈放(出所)されたのである。仍て被告人は入所中の苦みと反省とにより漸く本心に立帰りこの後は今迄の罪ほろぼしとして、出来るだけ世の為に働かうと深く意を決し家に帰つて左官の業務に励んで居りました。すると友人の岡本竹一郎なる者が尋て来て自転車を売つて呉れと申すにより同人は以前極めて真面目な男であつたので信用して居たから、まさか盗品などと思ひもよらず世話して売却してやつたところ夫れは盗品だと云う事で知らず知らずの間に又々仲間に引きずり込まれて遂い今回の事件になつた次第で思えば自分ながら自分の弱さにあきれ果て殘念で殘念で堪え難い気持であります。

それで今度こそは今迄の事を総て清算して真の人間として世に出直そうと決意した為今の度の事共につき自首を為し被害者に対しては出来るだけの弁償をつくし真心を以て御裁きを待つ者ではあるが別紙診断書の如く近時健康をも害して居るので服役の事もあやぶまれるし又自分の口より申し上げては変であるが前述の様な心境になつて居る事情であるから何卒特別の御詮議を以て出来る限り軽い刑の裁判を御願いする次第であります。

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