名古屋高等裁判所 昭和28年(ネ)235号 判決 1953年12月22日
控訴人 被告 近藤徳太郎
訴訟代理人 岩田源七
被控訴人 原告 第一貯蓄信用金庫
訴訟代理人 小島勇平
主文
本件控訴は之を棄却す。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は原判決を取消す被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
被控訴人の事実上の陳述は被控訴代理人に於て本件手形の裏書関係は手形受取人有限会社梅田家畜商会は昭和二十八年三月十日訴外尾崎国男に白地式裏書により本件手形を譲渡し、同訴外人は同月十六日被控訴人に裏書を為さず手形の交付により本件手形を譲渡し被控訴人は手形所持人となつたところ同年四月八日株式会社三和銀行に取立委任のため右手形の裏書譲渡を為し右三和銀行は同月九日株式会社百五銀行に、右百五銀行は同月十一日株式会社三重銀行に対し夫々取立委任のため該手形を順次裏書譲渡し右三重銀行は満期日に支払場所に本件手形を呈示し支払を求めたが支払を拒絶されたので本件手形は前記各銀行を経由し被控訴人に返戻され現に被控訴人が本件手形を適法に所持するものである、従て本件手形は裏書の連続に何等欠くるところはない、控訴代理人主張の抗弁は否認すると述べた外原判決事実摘示と同一であるから茲に之を引用する。
控訴代理人は答弁として被控訴人の主張事実中、被控訴人が信用金庫法により設立し金融業を目的とすること、控訴人が訴外有限会社梅田家畜商会に対し被控訴人主張の約束手形一通を振出交付したことは認めるが本件手形はその裏書の連続を欠き被控訴人は正当な手形所持人ではない、仮りに被控訴人が本件手形の正当な所持人であるとするも支払期限後の裏書に依る手形所持人であるから控訴人は裏書人である有限会社梅田家畜商会に対抗し得る抗弁を以て被控訴人に対抗し得るところ控訴人は本件手形を右梅田家畜商会に詐取されたもので何等手形上の債務は負担していないから被控訴人に対しても之が支払義務はないと述べた。
証拠として被控訴代理人は甲第一、二号証を提出し、控訴代理人は右甲第一、二号証の成立を認めた。
理由
控訴人が被控訴人主張の約束手形(額面金額八十九万四千九百十円支払期日昭和二十八年四月十五日振出地及支払地共三重県員弁郡阿下喜町、支払場所株式会社三重銀行阿下喜支店)一通を昭和二十八年二月十八日有限会社梅田家畜商会に宛て振出交付したことは当事者間に争がないところである、而して成立に争のない甲第一号証に依れば右有限会社梅田家畜商会は昭和二十八年三月十日白地式裏書により本件手形を譲渡し次で被控訴人が同年四月八日株式会社三和銀行に本件手形を裏書譲渡し右三和銀行は同月九日株式会社百五銀行に対し取立委任のため裏書譲渡し、右百五銀行は同月十一日株式会社三重銀行に対し取立委任のため裏書譲渡し同銀行は満期日の同年四月十五日支払場所に該手形を呈示したが支払を拒絶されたことが認められる、而して手形法第七十七条第一項第一号第十六条第一項に依れば白地式裏書に次で他の裏書あるときはその裏書を為した者は白地式裏書に因つて手形を取得したものと看做されるから本件に於て有限会社梅田家畜商会の為した第一裏書は白地式裏書であり之に次で被控訴人の裏書があるからその裏書を為した被控訴人は白地式裏書に因つて本件手形を取得したものと看做されること明かである、而して右被控訴人が株式会社三和銀行に対し為した裏書は譲渡裏書であつて取立委任のための裏書であると云うことは前示甲第一号証の本件手形の裏書記載からは認められないけれども同手形附箋に本手形不渡の節は拒絶証書作成下され度く御依頼申上げます第一貯蓄信用金庫三和銀行殿なる記載があるし成立に争のない甲第二号証には本件手形の支払を拒絶された者は第一貯蓄信用金庫である旨の記載並被控訴人が現に本件手形を所持する事実を綜合すると反証なき限り被控訴人の前記三和銀行に対する裏書は手形上の権利を移転しない取立委任の目的のための裏書であると推認し得られるところ右の如き取立委任の目的を以て手形の裏書を為す者が通常の譲渡裏書を為した場合譲渡裏書の記載がある以上当事者の意思如何に拘わらず之を争い得ないと云うものではなく何れの趣旨の裏書であるかは一に裏書人の意思に依て決すべきで若し裏書人の意思が手形上の権利を移転しない取立委任を目的とする裏書であるなれば仮令手形の裏書記載が譲渡裏書であつても手形上の権利は依然として裏書人に存し被裏書人との関係に於ては手形上の権利は被裏書人に移転しないから裏書人は被裏書人から更に戻裏書を受ける必要なく何時にても被裏書人から手形の交付を受け手形上の権利を行使し得べく此場合前記裏書を抹消すると否とにより影響なきものと解すべきである、従て被控訴人は右三和銀行に手形上の権利を移転しないで取立委任のため本件手形の裏書を為し其後の裏書も何れも取立委任の裏書で満期日に不渡となつたので被控訴人は取立委任をした前記銀行から之を回収し以て本件手形の所持人たる資格を回復したものと謂うべきである、然れば被控訴人は本件手形の適法な所持人であり本件手形の連続に欠くるところはないこと明かである、従て控訴代理人の主張する裏書の連続を欠く旨の抗弁並期限後裏書の抗弁は何れもその理由がない、又有限会社梅田家畜商会の手形詐取の抗弁もその前提である期限後裏書の点が認められない限り到底維持し得ないこと亦当然であるから控訴人の主張は総て之を採用出来ない、仍て被控訴人が控訴人に対し本件手形金八十九万四千九百十円及之に対する本件訴状送達の翌日であること記録上明かである昭和二十八年六月十九日以降完済まで年六分の遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由があるから之を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由なく棄却を免れない依て民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条を各適用し主文の通り判決する
(裁判長判事 中島奨、判事 石谷三郎、判事 県宏)