名古屋高等裁判所 昭和28年(ラ)7号 判決
本件抗告理由は抗告代理人楠田仙次提出の再抗告申立書記載の通りであるから、茲に之を引用する。要するに民事訴訟法第五百四十七条第二項の強制執行停止決定に対しては、不服申立を許すべきでないのに原決定が相手方の即時抗告申立を許容したのは違法であると云うにある。
仍て案ずるに強制執行の手続に於て口頭弁論を経ずして為すことを得る裁判に対しては、即時抗告を為し得ることは民事訴訟法第五百五十八条に規定するところであるが、同第五百四十七条第二項の強制執行を停止する裁判は口頭弁論を経ないで為すことが出来且強制執行の手続に於ける裁判であることは同法条の規定に徴し明かである。従て右裁判に不服ある当事者は即時抗告を為し得ることは法規上明瞭であつて、このことは従来大審院判例(昭和六年十二月十八日、及昭和七年二月一日の各決定)の認めるところである。
又民事訴訟法第五百四十九条第三項の第三者異議の訴の場合に於ける強制執行停止の裁判についても同法第五百五十八条に基き即時抗告を為し得ることは前段と同様である。然るに同法第五百条第二項及第五百十二条の場合に於ける強制執行停止の裁判に対しては特に第五百条第三項に不服申立を許さない旨規定があるため不服申立を為すことが出来ないのである。而して訴訟法が右第五百四十七条第二項、第五百四十九条第三項に基く強制執行停止決定に対し不服申立を許す理由は債権者債務者は停止決定に重大な利害関係を有するから、不当に不利益を受けた者を救済し双方の利益を公平に保護する必要があるからであるが、右第五百条第三項が停止決定に対し不服申立を許さないのは停止決定に不服申立を許すと自然停止決定の当否につき審理を尽す結果となり、本案の裁判前に之につき予断を抱く虞の生ずる場合があるのでその弊を避ける必要からであるとされている。然しながら右各停止の裁判は何れも本案裁判に至る迄の一時的処分であることは所論の通りで、右第五百条第五百十二条の場合と第五百四十七条第五百四十九条の場合とを区別する実質的理由が薄弱なようである。又一時的の処分に対しては本案裁判で当然審判されるのであるから、強制執行停止の裁判丈につき不服申立を許さない方が寧ろ合理的であるとの見方も成立し得る。従て第五百条第三項が原則的な規定であつて其他の場合は右第五百条第三項を類推適用して不服申立を許すべきでないとの所論は、立法論として見るときは洵に傾聴に値するものがあるが、前記のような現行訴訟法規の下に於ては第五百四十七条第二項の停止決定に対し第五百条第三項を類推適用して不服申立を許さないものと解釈することはいささか困難だと云わざるを得ない。尚執行停止決定に対し即時抗告を許しても受訴裁判所が民事訴訟法第五百四十八条第一項の裁判を為すことを妨げられるものではない。右停止の裁判は本案の裁判を為すに至るまでの仮の処分であつて本案裁判の言渡に依り当然その効力を失うから受訴裁判所は本案裁判を為すに当り、その後の執行状態を本案裁判の内容に適応する状態に置くため、右第五百四十八条の処分を為すのであつて、右執行停止の裁判に対する抗告は受訴裁判所の右権限に何等影響を及ぼすものでないこと明かである。要之に抗告代理人の所論は何れも採用し得ないから相手方の即時抗告を原審が許容したことは正当であつて本件再抗告は理由がない。仍て民事訴訟法第三百八十四条第四百十四条に則り之を棄却し、抗告費用の負担につき同法第八十九条第九十三条第九十五条を各適用し主文の通り判決する。
(裁判官 杉浦重次 若山資雄 石谷三郎)