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名古屋高等裁判所 昭和28年(ワ)1837号 判決 1959年6月15日

控訴人 金用得 外三名

被控訴人 平井博

主文

本件控訴は之を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、控訴人等代理人は「原判決中第一、二項を取消す。被控訴人の請求は之を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、尚担保を条件とする仮執行の宣言を求めた。

第二、当事者双方の事実上の陳述証拠の提出援用書証の認否は左記に訂正又は補充する外原判決事実摘示の通りであるからここに之を引用する。

一、控訴人等代理人は

(1)  原判決七枚目表末行に「立証として」とある後に「控訴人(被告)等全員は立証として」を附加する。尚原審における検証は二回共援用する。

(2)  本件名古屋市千種区千種通一丁目二乃至四番地附近の換地予定地の指定は千種区第三工区十三ブロツクの八番及九番として指定され九番は株式会社東海銀行に、八番は鈴木善七に指定せられたものである。このため鈴木善七の旧地は減歩されたためその一部は東海銀行の換地即ち右九番の土地に含まれることとなつたものである。而して、被控訴人は換地予定地指定以前の昭和二十五年一月頃から右鈴木善七の旧地を借りて同地上に建築物を築造していたが、換地予定地指定の結果右建築物の一部は東海銀行の換地予定地に喰い込んで存在することとなつた。ところで、他に換地予定地の指定を受けたものが従前の土地で第三者の換地予定地となつた区域に建造物其の他の工作物を所有してその土地を使用しているときは協議又は命令によりその障害物を撤去又は移動することを要しその撤去又は移転完了の日が従前の土地使用禁止の日と定められて居りその日まで換地予定地の使用を禁止すると明に換地予定地の使用開始の日も定めている。之はとりも直さず自己が従前の土地を依然として使用しながら他の換地予定地を使用するという二重の利得をすることを防ぐための当然の措置である。従つて、本件の場合において被控訴人の建築物が東海銀行の換地予定地なる前記九番の土地に喰い込んで存在する限りはこの建築物を協議又は命令により撤去又は移転した後でなければ鈴木善七の本件換地予定地使用開始の日は到来しないものというべきである。而して、鈴木善七の換地予定地上に存する控訴人等の建物の移転又は撤去についても当事者の協議又は命令を要するものである。従つて、本件換地予定地の指定を受けた鈴木善七は只それ丈では当然に第三者に対して直接建物収去土地明渡等を求める権利を取得しない。況んや、鈴木善七から賃借権を取得しているに過ぎない被控訴人は尚更のことであると述べた。

二、被控訴代理人は右控訴人等主張事実に対し本件千種区千種通一丁目二乃至四番の土地に対し控訴人等主張の如く換地予定の指定があつたこと、右換地予定地の内九番の土地が東海銀行に、八番の土地が鈴木善七に換地予定地として指定せられたこと、被控訴人が鈴木善七から控訴人等主張の千種区千種通一丁目三番及四番の土地を借りていることは之を認めるがその余の事実は之を争うと述べた。

理由

名古屋市千種区千種通一丁目二乃至四の土地に対し名古屋市の区劃整理の結果控訴人等主張の如く同市千種区第三工区十三ブロツク第八番及同第九番の土地が換地予定地として指定せられたこと、右換地予定地の中九番の土地が東海銀行に八番の土地が鈴木善七に換地予定地として指定せられたこと、控訴人等が右八番の換地予定地の内被控訴人主張の様な部分を占拠し右地上に夫々被控訴人主張のような建物を所有していることは当事者間に争がない。

而して、成立に争のない甲第一号証、同第七号証乙第一号証原審証人鈴木善七、同鬼頭博の各証言、右鈴木善七の証言により成立を是認すべき甲第六号証原審における被控訴本人尋問の結果によれば、鈴木善七の所有地は右千種区千種通一丁目三及四番の土地であり昭和二十五年一月二十八日右二筆の土地に対し名古屋市の施行する区劃整理の結果前記第八番の土地が仮使用地として指定せられ次いで昭和三十年三月三十日右仮使用地と同一の土地が前記の如く換地予定地として指定せられるに至つたこと、右換地予定地は従前の土地と比較すると従前の土地の北側が削られ反面南側の道路が一部私有地化され之を合せて鈴木に換地予定地として指定されたため控訴人等の占有する元道路であつた本件土地は右換地予定地内に属することゝなつたこと、之により先被控訴人は昭和二十一年十月頃前記千種区千種通一丁目三及四番の土地を鈴木から賃借して建物を築造し(右土地を借受けていることは当事者間に争がない。)その内名古屋市より換地を受けた分(控訴人等の占有する本件土地を含む)については仮使用地指定と同時に賃借し引続き現在も之を賃借していることが認められ右認定を左右するに足る証拠はない。而して本件の土地区劃整理は特別都市計画法に基いて施行されたものであるが土地区劃整理法施行後は同法に引継がれ特別都市計劃法に基く本件土地の換地予定地の指定は土地区劃整理法に基く仮換地指定となつたものと認められる。

そこで、本件従前の土地である千種区千種通一丁目三及四番の土地所有者であつた鈴木善七が前記換地予定地として指定された千種区第三工区十三ブロツク第八番の土地について所有権の内容である使用収益の権限と同一の権限を有するか否かについて判断する。成立に争のない甲第七号証同第八号証原審証人鬼頭博の証言によれば名古屋市としては前記の如く昭和二十五年一月二十八日本件土地につき仮使用地の指定をなした時以後暫定的に土地所有者たる鈴木善七にその使用収益を許したこと、昭和三十年三月三十日換地予定地の通知をなした翌日から特別都市計画法第十四条に基き、土地区画整理法施行後は同法第九十九条第一項に基き換地予定地について所有権の内容である使用収益権限と同じ使用収益権限を有するに至つたものであることを認めることが出来る。

控訴人等は鈴木善七の前記従前の土地の一部は東海銀行に対する換地予定地として指定せられその地上に被控訴人の建物の一部が存在するから鈴木善七は本件換地予定地を使用するためには右被控訴人所有建物を協議又は命令により撤去又は移転したる後でなければ使用することが出来ない旨抗争し前記甲第七号証によれば「(一)従前の土地の区域で換地予定地指定によつて道路公園其の他第三者の換地予定地となつた区域の使用禁止については別に建築物其の他の工作物の移転又は撤去につき協議によつて若くは命令によつて定められた移転又は撤去完了の日を使用禁止の日と致します。従つて、此の場合は使用禁止の日まで換地予定地の使用を禁止します。(二)換地予定地として指定せられた区域内で従前の土地以外の区域の使用開始の日は該区域内の建築物その他の工作物等の移転又は撤去完了の日と致します。」と記載しあり右は特別都市計画法第十四条第三項(土地区画整理法第九十九条第二項)に基きなされたものであり右記載によれば鈴木善七の換地予定地使用開始の日は仮に控訴人等主張の如く鈴木善七の従前の土地の一部が株式会社東海銀行の換地予定地に組入れられ該地上に被控訴人所有の建物が存在するとすれば控訴人等主張の如く被控訴人が協議又は命令により右建物を撤去又は移転せしめた日であるが如く考えられる。然しながら前記特別都市計画法第十四条第三項、土地区画整理法第九十九条第二項の趣旨従つて之に基く甲第七号証の右記載の趣旨は控訴人等主張の如く換地予定地権利者の従前の土地と換地予定地の二重使用を禁止する丈の趣旨ではなく換地予定地上に従前の正当な権利者が建物等を有する場合に之を保護するため右正当な権利者が建物等を撤去又は移転するまで換地予定地権利者の換地予定地の使用を禁じた関係上換地予定地権利者の従前の土地使用を許容したものと解すべきである。従つて、不法占拠者に対しては右に拘らず換地予定地権利者は換地予定地の使用収益をなし得るものと解するを相当とする。而して、後記認定の如く控訴人等は本件土地の不法占拠者であること明であり甲第七号証の前記の如き記載は前記の趣旨を表明した例文に過ぎないと認め得るから本件換地予定地につき鈴木善七はその通知のあつた昭和三十年三月三十日の翌日以降之を使用取益する権限があるものと認められる。従つて、控訴人等の右主張はその理由がない。

控訴人等は昭和二十一年初頃取締当局から道路の使用許可を得て本件土地を使用して来たものであり、被控訴人は本件土地を特に鈴木善七から賃借した事実がない旨抗争しているが、控訴人等が警察当局から道路の使用許可を得て本件土地を使用していたとの主張事実については之に副う如き原審における控訴本人静野豊吉の供述原審証人大村為蔵の証言は原審証人鬼頭博の証言と対比して措信しがたく他に之を認めるに足る証拠がない。又被控訴人が鈴木善七から同人に本件土地が仮使用地として指定せられた後之を特に同人から賃借したことは前記認定の通りであるから控訴人等の主張はその理由がない。

控訴人等は更に被控訴人からその占有する土地を賃借したと主張し控訴人金用得は特にその所有の本件建物及その借地権を松原豊春から買受けるに際し被控訴人の承諾を得た旨主張するから此の点について判断する。原審証人横井繁子の証言、原審における被控訴本人及控訴本人静野豊吉の各供述によれば控訴人静野豊吉等から被控訴人に対し昭和二十六、七年頃酒二升を提供したことは之を認めることが出来るが、右酒二升が地代として被控訴人に提供せられた事実については之を認めるに足る証拠がない。のみならず、原審における被控訴本人の供述によれば右酒二升は被控訴人は近隣者の挨拶として受取つたものであり、被控訴人もその頃炭を返礼として返している事実が認められるから控訴人等が被控訴人から本件土地を借受けたという主張はその理由がない。又原審証人松原豊春の証言同証言により成立を是認すべき乙第二、三号証、原審証人横井繁子の証言原審における控訴人金用得本人の供述によれば控訴人金用得が昭和二十七年七月十八日同控訴人所有の本件家屋を松原豊春から買受けたことは之を認め得るが、右買受に際し右家屋所在の本件土地使用について被控訴人の諒解を得たとの同控訴人主張事実については之に副う如き原審証人松原豊春の証言、原審における控訴人金用得本人の供述は措信しがたく他に之を認めるに足る証拠はない。されば控訴人等は本件土地を夫々不法占拠しているものというの外ない。而して、被控訴人が本件土地を鈴木善七から賃借していることは前記認定の通りであるから被控訴人は鈴木善七に対して本件土地を使用収益せしむべきことを請求し得べき債権があるといえる。そして賃貸人たる鈴木には前記認定の通り本件土地所有権の内容と同一の使用収益の権限があるのであるから同人は控訴人等に対して本件建物を収去して土地明渡を求め得べきこと勿論である。而して、原審証人鈴木善七の証言によれば鈴木善七が右請求権を行使しないこと明であるから被控訴人は鈴木善七に代位して右権利を行使し得るものといわねばならない。

控訴人等は都市計画に基く換地上の地上物件の除去は行政庁の実施すべきことで私人の実施すべきことでない主張するが、特別都市計画法(土地区画整理法第九十九条第二項)により換地予定地につき別に使用開始の日が定められ右使用開始の日以前であるならば格別本件の場合においては前記甲第七号証の記載は右の使用開始の日を定めたものと認められないこと前段説明した通りであるから換地予定地権利者は行政庁たる名古屋市の処分を俟たず自らの権限に基いて控訴人等に対し本件建物収去土地明渡を求め得るものと認むべきであるから控訴人等の右主張はその理由がない。

控訴人等は更に被控訴人の本訴請求は権利濫用であると主張するからこの点について判断する。既に判断した如く控訴人等が被控訴人に提供した贈物は近隣の者の挨拶としてなされたものに過ぎず控訴人等は本件土地を不法に占拠しているものであり、且被控訴人の賃借している鈴木善七の土地が換地の結果減坪になつたことは原審証人鈴木善七の証言により明である以上被控訴人が本件土地を必要とすることは明であるから控訴人等の占有する範囲は夫々近々一坪に過ぎず本件露天バラツクによつて控訴人等がその生活を支えているとしてもそれのみを以て本訴を権利濫用となすことが出来ない。又原審証人勝野正三、同大村為蔵の各証言原審における控訴人静野豊吉本人の供述によれば控訴人静野は本件土地附近の本件以外の他の露天及公衆便所の移転に尽力して被控訴人方の店舗に出入を便ならしめたことを認めることが出来るがそのことがあつたからといつて本訴請求を権利濫用となすことが出来ない。又原審における被控訴本人の供述によれば被控訴人が控訴人等と発展会を作つたこと、被控訴人が本件土地に小さな店舗を作ることを計画し之を控訴人等に洩したことがあつたが之を中止するに至つたことが認められるけれどもそのことが本訴を権利濫用となすに至るべき理由もないこと勿論である。尚控訴人等は被控訴人が代位して本訴請求をなすことを云為するが、原審証人鬼頭博、同鈴木善七の各証言によれば被控訴人が代位して本訴を提起したのは区画整理施行者たる名古屋市も所有者たる鈴木善七も控訴人等に立退を要求しないためやむを得ずなしたことを認めることが出来るから控訴人等の右主張は結局その理由がない。

されば、控訴人等は爾余の争点について判断するまでもなく被控訴人に対し夫々被控訴人主張の建物を収去してその敷地たる被控訴人主張の土地を明渡すべき義務があるものといわねばならない。

以上の理由により右と同趣旨の原判決は正当であつて本件控訴はその理由がないから之を棄却し、尚被控訴人は仮執行の宣言を求めているが本件は仮執行の宣言を付さないのが相当と認めたから之を却下し民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 県宏 奥村義雄 中谷直久)

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