名古屋高等裁判所 昭和29年(う)1047号 判決
訴訟記録を調査するに、本件起訴状の公訴事実第二において、「その間(昭和二十九年八月二日頃より同年九月十四日までの間)接続して前後数十回位にわたり云々」と記載されていることは論旨指摘のとおりである。刑事訴訟法第二百五十六条第三項において、公訴事実は、訴因を明示してこれを記載し、訴因を明示するには、できる限り、日時、場所及び方法を以て、罪となるべき事実を特定して、これをしなければならない旨を規定しているのであるが、その趣旨とするところは、他の訴因との同一性を区別するに足る程度に、具体的に犯罪の日時、場所、目的物等を記載すれば足るものであり、本件のような包括一罪を構成する覚せい剤譲渡の罪については、犯行の始期と終期、場所、回数、相手方、その数量等を明らかにすれば、訴因は特定するというべきである。本件についてこれを検討するに、本件起訴状には、公訴事実第二において、「その間(前記の期間)接続して前後数十回位にわたり、前記被告人居宅において、新橋弘道外十数名の者に対し、覚せい剤注射液合計約千八百八十二本を、代金約三万七千六百四十円で販売して譲渡し」と記載されていたのであるが、検査官より、起訴状訂正の方法により、右の期間を「昭和二九年七月下旬頃より同年九月十四日までの間」と、数量を「合計約六千百八十八本」と、金額を「約十二万三千七百六十円」と訂正され、裁判所においてこれを許可し、(右は訂正というが、訴因の追加であると認められる。)審理の末、原判決はその頃(昭和二十九年七月下旬頃より同年九月十四日頃までの間)接続して前後数十回位に亘り、前記被告人居宅において、新橋弘道外十数名のものに、右覚せい剤注射液合計約六千百八十八本を、代金約十二万三千七百六十円にて譲渡し」たものであると認定処断している。そして、検察官の起訴も、原判決も、ともに、前記期間内の接続した数十回位の覚せい剤の譲渡を包括して一罪と認めたものであることは、その起訴状の記載及び判決文に徴して、明らかであるから、前説示に照らして、起訴状記載の公訴事実が訴因を特定していないとはいわれず、従つて、原審が右起訴状によつて、前記のように審判したことは、訴訟手続に法令違反があるとはいわれない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 高橋嘉平 判事 山口正章 判事 海部安昌)