名古屋高等裁判所 昭和29年(う)170号 判決
次に職権をもつて原判決の擬律の当否につき審査するに、原審は被告人の判示所為中、第一乃至第六の所為につき、孰れも刑法第二百四十六条第一項を、第七の所為につき、同法第二百二十五条を、第八の所為につき、同法第二百二十五条第二百二十八条を、第九(1)乃至(6)の所為につき、孰れも同法第二百五十六条第二項罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号を適用し、同法第五十九条第五十六条第一項第五十七条に則り、判示前科に基く累犯の加重を為し、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるとして、同法第四十七条本文第十条第四十八条に則り最も重い判示第七の営利誘拐の罪の刑に法定の加重をすると共に、判示第九の(1)乃至(6)の賍物牙保の罪の各罰金を合算し、その懲役刑期及び罰金合算額の範囲内で被告人を懲役参年及び罰金壱万円に処しているものであることが、原判決法律理由部分の記載によつて、明白である。ところで、前記の如く、刑法第二百二十五条の罪の刑(一年以上十年以下の懲役)に対し、累犯の加重をした上、さらに併合罪の加重を為すときは、その長期が同法第十四条の制限を超過するに至ることは計算上明白であるにも拘らず、記録を検討するも、原判決の擬律中には、刑法第十四条を適用した旨の記載が全く見当らない。思うに、刑事訴訟法第三百三十五条第一項が、有罪判決の理由中に於て、特に法令の適用を示すべきことを要求している趣旨たるや、一般的な法定刑から、具体的な処断刑が、如何なる法律的操作によつて、如何に遵き出されたかを、個々の事案について具体的に明かならしめるにあること多言を要せずして明かなところである。然るに、刑法第十四条は、各本条の法定刑を、一般的に変更するところの、罰金等臨時措置法の如き総則的規定とは、もとよりその趣きを異にし、罪名、前科、罪数等の如何により、個々の場合につき、具体的に操作される刑の加重減軽の限度を規制し、個々の事案に於ける処断刑の裁量について、重要な影響を及ぼすべき特別の規定であり、従つて、叙上の如き刑事訴訟法第三百三十五条第一項の解釈を是認する限り、換言すれば、法定刑から処断刑が導き出された経緯を、判文中最少限度に於て、明確にする必要ありとする限り、刑法第十四条は、個々の事案に於て、苟くも、該法条を適用した以上、当該事案の有罪判決に於ける理由中、その摘録の省略を許されない規定であるとの結論に到達せざるを得ない。以上の如き解釈を採用するに於ては、原判決は、法令の適用を誤り、刑法第十四条を適用しなかつたものでなければ、其の理由中、適用した法令の摘示を遺脱した不備ありと為さざるを得ず、前記法令適用の過誤は判決に影響すること勿論であるから、原判決はこれを破棄しなければならぬ。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿郎 判事 沢田哲夫)