名古屋高等裁判所 昭和29年(う)378号 判決
論旨は原判決判示第二の業務上横領は包括一罪とみるべきものであるのに、原審が、これに対し併合罪の規定を適用したのは失当であると云うに在る。
按するに業務上横領の被害法益が単一であり、それが単一若は継続の意思の発動に基くものと認められる場合には、数個の行為も包括的に観察して一罪と認めるを相当とする。原判決によると原審は被告人が同別表の通り前後三十六回に三十余ケ所から集金して業務上保管するに至つた金員を着服した事実を認定し、これに対する適用法令として刑法第四十五条前段の併合罪の規定を掲記しているので、その全部を包括一罪とみたものでないことは明白であるが、原審が果してこれを三十六回の各別の罪と認めたものか、昭和二十八年四月二十五日頃の二十余回の集金着服の分の如き原審自身もこれを包括一罪と認めながら結局全体を二つ乃至は数個の業務上横領の罪と認めた結果併合罪の規定を掲記するに至つたものか、いずれとも断定し得ない。ところで記録につき調査するに右四月二十五日頃の犯行の如きその着服費消の状況から見て単一の犯意によるものと認められ当然包括一罪とすべきではあるが、これと同月一日頃の二回の犯行との間には二十余日を隔て、その間犯行の認むべきものゝない点等から考へ、少くも以上の両者の間には犯意の単一若は継続を欠き、夫々独立の罪を構成し、併合罪の関係に立つものと認めるのを相当と認められるので、原審の意嚮が前説明のいずれにあつたかに拘らず原判決別表の所為を刑法第四十五条前段の併合罪とし、同注第四十七条を併せ掲記して併合加重するものとした原審の措置は正当というべく、論旨は結局理由なく、採用の限りではない。
(裁判長裁判官 高橋嘉平 裁判官 石谷三郎 裁判官 山口正章)