大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)557号・昭29年(う)556号・昭29年(う)560号・昭29年(う)558号・昭29年(う)559号・昭29年(う)555号・昭29年(う)561号 判決

論旨は、原判決は、被告人大形玉平より現金三万円を没収し且つ金十九万四千四百八十円を追徴する旨を言い渡しているのであるが、被告人大形が増本より供与を受けた金五十五万円から、供与を受けた趣旨に従つた支出をしているときは、収受した利益を保持しているものということができないから、その価額を追徴することはできないものであるに拘らず、原審は、その支出の態様、数額等を確定せず、従つて、被告人大形の保持する収受利益を明確にせずして、漫然前記金額を追徴する旨言い渡したのは、審理不尽若しくは理由不備の違法があるというのである。よつて審案するに、原判決が被告人大形より金十九万四千四百八十円を追徴する旨を言い渡していることは所論のとおりであるが、原判決は、右金額が被告人大形の収受した利益の内没収することができない価額であるとして、その計算の根拠方法を添付別紙の追徴金額明細表によつて判示してあることが明らかであるのみならず、追徴金額を計算した根拠方法は罪となるべき事実ではないので、必らずしも、これを判示する必要はないものと解すべきであるから、原判決には、この点に関して理由不備があるとはいわれない。然し、原判決の判示してある追徴金額の計算の根拠方法について検討するに、原判決は、被告人大形が増本より供与を受けた金五十五万円より、大形つた等の検察官に対する各供述調書によつて認められる大形つたより岡野藤英、向原鶴吉、柴原正保にそれぞれ渡した金額及び大形つたが労務者等に供与した金額並びに右金五十五万円中没収の言渡をした金三万円を控除した前記金額をもつて追徴すべき価額であると判示しているのであるが、当裁判所は、右のような計算の方法は認容し難いところである。即ち、岡野、向原、柴原及び大形つたは、被告人大形が供与を受けた金員をもつて選挙運動者に供与すべきことを共謀した上、原判示のように選挙運動者等に供与又は饗応接待したものであつて、被告人大形が増本から供与を受けた金五十五万円を被告人大形の妻である大形つたが保管していて、その金員中より、大形つた又は同人より金員を渡された岡野等が供与等したものであるが、右金五十五万円を被告人大形から大形つたに保管のために渡したことは勿論、大形つたからその金員の一部を岡野等に渡したことも、供与を受けた趣旨に従つた支出ということはできず、単に共謀者間における保管の移動があつたに過ぎないといわなければならない。従つて、例えば仮りに被告人大形から右金員全額が大形つた又は岡野等に渡されたとしても、同人等において供与を受けた趣旨に従つた支出を全くしていない場合には、なお被告人大形は、その収受した利益全額を保持しているものであつて、これを没収することができないときは、その価額を追徴すべきものであることは明らかであるから、かような場合に被告人大形より何等の追徴もなし得ないというのは、追徴の規定を設けた趣旨にそわない考え方であるといわなければならない。そうであるとすれば、原判決は、法令の解釈を誤り、追徴金額の計算方法を誤つたものであるというべきである。当裁判所は、供与を受けた金員中に他の選挙運動者等に供与すべき金員が含まれている場合には、その趣旨に従つて支出された金員を控除した金員が受供与者の収受した利益であると解するので、本件の場合においては、被告人大形より、前記金五十五万円から供与を受けた趣旨に従つて支出された金額を控除した金額を追徴すべきものである。そこで、被告人大形等が供与を受けた趣旨に従つて支出した金額を計算して見るに、原判示第二乃至第十一の供与及び饗応接待の金額より判示第二の各饗応接待並びに第六の(十一)(イ)及び第十一の(一)の供与は、被告人大形が供与を受ける以前に自己の金員中より支出されたものであるから、これを控除した残額二十四万三千三百五十円が原判決で認定された供与及び饗応接待の金額であり、更に、原判決添付別表に記載してある大形つたが労務者五名に渡した合計金一万五千円同人が山下弘丸に渡した金七千円及び同人が南勇に渡した金二千円は、供与を受けた趣旨に従つて支出されたものと認めるのが相当である。然し、右別表の中、南勇に渡した中の金五千円は、判示第六の(十)に該当し、又、井村三吉に渡した金三万円は、判示第十に該当するので、右金額は重複して計算に入れることをしない。従つて、供与を受けた趣旨に従つて支出された金額は、前記の合計金二十六万七千三百五十円であり、これと没収の言渡をされた現金三万円を金五十五万円より控除した金二十五万二千六百五十円が被告人大形より追徴し得べき金額である。そうであるから、原判決は、追徴し得べき金額につき、法令の解釈を誤つて、これを過少に認定した違法があるが、本件は、被告人のみの控訴にかかる案件であるから、被告人大形の不利益に原判決を変更することができないので、原判決を破棄しないこととする。結局、論旨は理由がない。

(裁判長判事 高橋嘉平 判事 栗田源蔵 判事 石田恵一)

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