名古屋高等裁判所 昭和29年(う)590号 判決
記録に徴するに本件起訴状記載の公訴事実第一は被告人楊柏学、同廖清連の両名は共謀の上法定の除外事由がないのに昭和二十六年四月二十五日頃被告人廖清連方居宅に於て米国軍票千五百弗を五十四万円の対価を以て譲受けて之を収受したとの米国軍票収受の共同正犯の事実であるのに原判決は論旨摘録のように之を被告人楊柏学の単独犯行と認定し被告人廖清連の所為を以て右犯行の幇助と認定していることは所論の通りである、而して共同正犯は数人が互に相協力して自己の犯罪を実現する意思を以て自己の行為を自己の犯罪実現に使用すると同時に他の共同者の為にも奉仕し、他の共同者の行為を自己の犯罪実現に利用するものである、従つて各正犯者は自己の行為に対する責任は勿論他の正犯者の行為についても責任を負担する関係にあるのである、之に反して従犯は自己の犯罪を実現する意思なく他人の犯罪実現に奉仕するものであつて実行行為以外の行為を以て正犯の実行を容易ならしめる行為である、この場合他人の犯罪か自己の犯罪かの区別は実行々為を離れて観念することは出来ないのであつて他人の為めにしても実行々為をすれば自己の犯行である。
仍て此の標準に依り本件第一の(1)の事実を観るに原判決に挙示している原判示第一の(1)及同第二の事実に関する証拠を綜合すれば所論の如く被告人楊柏学は進駐軍人から一九四九型外車を買受けるに当り其の資金として米国軍票が必要であつたので被告人廖清連に相談の結果同被告人から右軍票買入資金を支出して貰うこととなり軍票の売主である石原芳郎外一名と共に昭和二十六年四月二十五日頃被告人廖清連方に到り同所に於て同被告人から前記石原に対し米国軍票千五百弗の譲受代金五十四万円を支払つて右軍票を譲受け其の後前示外車を買入れる迄の間引続き同被告人に於て之が所持を為していた事実を認めることが出来る、由是観之被告人両名は右軍票の収受に付互に意思を通して夫夫自己の犯行を実現する意思を以て共謀したものと認定せざるを得ない、従つて原審がその判示第一の(1)に於いて被告人楊柏学の千五百弗の収受をその単独犯行と認め又同判示第二に於て被告人廖清連は被告人楊柏学が原判示第一の(1)の罪を行うに当り同人に米国軍票の買入資金として五十四万円を貸与して同被告人の右犯行を幇助しと認定したのは証拠の価値判断を誤り採証の法則に反し事実を誤認した違法がありこの違法は判決に影響を及ぼすものと謂わなければならないのでこの論旨は理由がある。
(裁判長裁判官 小林登一 裁判官 栗田源蔵 裁判官 石田恵一)