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名古屋高等裁判所 昭和29年(や)1号 判決 1954年12月16日

主文

申立人に金弐万弐千百拾弐円を補償する。

理由

本件申立の趣旨並に理由は、申立人の費用補償申立書を引用する。

よつて申立人に対する背任若くは臨時物資需給調整法違反被告事件(当裁判所昭和二八年(う)第四八四号)の記録によれば、昭和二十六年十月十五日岐阜地方裁判所が被告人に対し無罪の判決言渡をしたので、検察官が控訴したところ、昭和二十九年十月十四日当裁判所において、本訴因である背任事件については、第一審の無罪判決を維持して、検察官の控訴を棄却し、予備的訴因である臨時物資需給調整法違反については、第一審では、本訴因同様、無罪の判決をしたけれども、当裁判所では、第一審判決後である昭和二十七年四月二十八日政令第一一七号大赦令が施行せられたので、最高裁判所例に従い、控訴理由の存否の審査をすることなく、職権により、原判決を破棄して、免訴の判決言渡を為し、右判決は、法定期間の経過により、確定したことが明らかである。右の通り、若し第一審において本訴因の背任について、有罪の認定をすれば、予備的訴因については、判断の要はなかつたのであるが、第一審で、本訴因について無罪の認定を為したから、予備的訴因についても審理し、犯罪の証明なしとして無罪の判決をしたのであるから、検察官は、二個の無罪判決に対して控訴棄却の判決があつたので、この点についての上訴費用は、刑訴法第三百六十八条により、申立人に補償しなければならないものである。予備的訴因については、免訴の判決があり実質的には、被告人は不利益となつていないが、前記の通り、原判決が破棄せられているので、刑訴法第三百六十八条により、補償の請求はできないものと解すべきである。若し予備的訴因についても控訴審において、控訴理由があるかないかを審理していたならば、本訴因同様検察官の控訴が棄却せられたであろうことは本訴因の審理の結果から見て想像に難くないが、前記の通り、実体的な審理をしなかつたのであるから、これは想像の域を出ないもので、これを目して、所論の如く、控訴棄却と同視することはできないものと解すぺきである。然れども、本件控訴審においては、本訴因の背任について控訴が理由ないときは、予備的訴因については、免訴の判決をしなければならなかつたことは、事件受理の時から明白であつたから、専ら本訴因について、控訴の理由があるかどうかについて審理し、検察官も弁護人もこの点について攻撃防禦の方法を集中したのである。従つて控訴審の公判期日及び公判準備期日の各出頭は、本訴因についての控訴のためであると謂うことができるから、申立人及び弁護人の旅費、日当並に弁護人の報酬はこの点を考慮して決定すべきものである。従つて刑事訴訟費用法第二条、第三条、第七条により、申立人に補償すべき金額を次の通り定める。

(一)申立人は、当裁判所における公判期日に九回、岐阜地方裁判所で開かれた公判準備期日に三回出頭したから、その日当は合計二千百六十円(一回百八十円の割)、右の九回の公判期日に出頭のため要した旅費は合計二千百二十四円(岐阜名古屋間往復電車賃百四十円往復陸路三里分九十六円の割にて計算)以上合計四千二百八十四円が申立人の日当及び旅費である。

(二)弁護人は、公判期日に八回出頭し、公判準備期日に三回出頭したから、その日当は、合計五千九百四十円(一回五百四十円の割)公判期日に出頭のために要した旅費は合計千八百八十八円(計算方法は、申立人に同じ)、以上合計七千八百二十八円が弁護人であつた旨の日当及び旅費である。

(三)弁護人の報酬も、前記の通り、刑事訴訟法に基いて決定すべきであつて、その報酬については、当裁判所は、金一万円を相当と思料する。

以上総計二万二千百十二円を申立人に補償することにする。

よつて刑訴法第三百六十八条、第三百六十九条、刑訴法規則第二百三十四条に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 赤間鎮雄)

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