名古屋高等裁判所 昭和30年(う)1017号 判決
原判決挙示の証拠即ち被告人の原審公判廷における供述及び猪飼勘一の被害届(第一事実)並びに後藤一雄の被害届(第二事実)によれば夫々判示第一、第二事実を認定するに十分である。論旨は被告人の原審における自白は虚偽のものであるから、之を以て事実を認定した原判決は事実誤認であるというにあるを以て案ずるに、被告人は第一事実の容疑により昭和三十年五月三十日逮捕翌三十一日勾留され、爾来司法警察員又は検察事務官により数回取調を受けたが、常に否認し同年七月九日に至り初めて自白するに至つたことは記録上明白である。従つて右自白は被告人が長期の勾留にたえかね任意になされたものでないかの疑が存するけれども、金充植の司法警察員に対する供述調書に徴すれば、被告人が司法警察員神谷勉により第二回目の取調を受けた同年六月三日には金山一郎こと金充植も同司法警察員の取調を受けたが、同人は被告人外一名と共謀の上判示第一の犯罪を犯したことを詳細に供述しておるのであるから、之と全く反対の供述を為す被告人に諸種の角度から質問を試みることは職務上当然であり、之が為勾留が若干長引き、その後に至り初めて自白するに至つたとしても、その自白が任意にされたものでないということはできない。而して被告人は昭和三十年七月十一日の右司法警察員の取調において判示第二事実につき自白し、その後検察事務官の取調において第一、第二事実共自白しているのみならず、原審第二回公判期日において第一、第二の公訴事実をその侭認めたので、裁判官国本徳五郎は簡易公判手続の趣旨を説明し、被告人に対し簡易公判手続につき異議のない旨を確めた後、簡易公判手続によつたものであることは右公判調書により明らかであるから、被告人の右公判廷における自白は任意になされたものであつて、論旨の如く或は公判手続が長引くことをおそれた自白であるとか、或は第三者の示唆に基く虚偽の自白であるとかいうことを認めることはできないし、又前説明の事情により勾留が長くなつたのであるから、不当に長い抑留拘禁の後になされた自白ということもできなく、原判決が右自白を以て判示事実を認定したことは相当であつて、論旨は理由がない。
次に職権を以て調査するに、原審は判示第二事実認定の証拠として被告人の原審公判廷における供述(自白)と後藤一雄の被害届を挙示していることは判文上明らかである。然しながら記録編綴の同人の被害届によれば右盗難被害物件として自転車二輛のみの記載でその余の判示被害物件に付て何等記載するところがない。よつて審案するに、記録編綴の右被害届(第一二九丁、一三〇丁の二葉)、当審証人武藤敏男並びに同国井敏の各証言及び当審で取調べた後藤一雄の被害届一葉(岐阜簡易裁判所昭和三〇年(う)第二九四号被告人金宝完に対する賍物寄蔵被告事件中第二七丁編綴の後藤一雄の被害届(一))によれば、本件と右賍物寄蔵事件とは何れも岐阜簡易裁判所において昭和三十年八月二十四日公判開廷され同日各別に審理されたが本件の被害物件と右賍物寄蔵事件の賍物とは同一であるので、検事国井敏は当審提出の被害届一葉と記録編綴の被害届二葉とを合せて後藤一雄の被害届一通(各契印あり)として右両事件の審理に際し夫々証拠調を請求し、適法に証拠調を経た後原裁判所に提出したが、原裁判所書記武藤敏男は記録を整理するに際し、誤つて右被害届中上の一葉を右賍物寄蔵事件の記録第二七丁に、下の二葉を本件第一二九丁、第一三〇丁に編綴したことを認めることができ、右三葉の被害届一通が適法に証拠調をしたものであることは明らかであるから、右被害届中の一葉が記録に編綴されていなかつたけれども、補強証拠に欠くるところなく、違法でないから原判決は破棄するに及ばない。
(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 石田恵一)