名古屋高等裁判所 昭和30年(う)12号・昭30年(う)11号・昭30年(う)13号 判決
論旨は原判示(一)乃至(四)と(七)(九)に、被告人が譲渡したとせられている「覚せい剤注射液」なるものが果して覚せい剤取締法第二条の如何なる製剤に該るか否か、原判決挙示の証拠は勿論本件記録全般を通じても、明かでないから、原判決はこの点につき、審理不尽、理由不備乃至は事実誤認の瑕疵があるというに在る。
思うに厳密に科学的に考えれば、覚せい剤取締法第二条に該当の覚せい剤かどうかは、分析等の科学的方法によらねば確定し得ないところであるが、同法違反事件の処理に当つては、必ずしも常にかかる方法による必要はなく、判断が合理的と認められる限り関係者の供述等を資料として、覚せい剤と認定しても差支えないものと解するを相当とする。記録を調査するに、所論各譲渡物件につき、特に前記の如き分析等の科学的鑑定方法の執られた形跡はないが、原判決に本件各事実認定の証拠として挙示せられている被告人及び各関係譲受人の供述には、いずれも所論の譲渡物件は「ヒロポン注射液」であつたとなつていて、いわゆる「ヒロポン」とは覚せい剤取締法で取締の対象としている覚せい剤で、フエニルメチルアミノプロパンを含有する製剤を指すものなることは経験則の教えるところであるから、反証のない限り右判決挙示の証拠によつて原判示の通り覚せい剤注射液の譲渡があつたと認定し得ないわけではない。そして記録並に原審取調の証拠を精査するに、被告人等の前記供述に見える本件関係のヒロポン注射液が覚せい剤でないと疑うべき資料は全々なく、却つて、被告人の検察官に対する供述原審公判に於ける供述により、右注射液は本弁護人も覚せい剤であることを争はず、鑑定の結果もフエニルメチルアミノプロパン含有の製剤たる原判示(五)(六)(八)(十)の譲渡又は所持の物件と同様、すべて一宮市の某男なる同一人から譲受けたものであることが窺はれるので、所論はすべて採用に由ないところといわねばならない。
(裁判長裁判官 高橋嘉平 裁判官 山口正章 裁判官 海部安昌)