名古屋高等裁判所 昭和30年(う)244号・昭30年(う)245号・昭30年(う)247号・昭30年(う)246号 判決
論旨は、原判決は、被告人李弼武(原判決は弼を遺脱す。)同李昇九に対し、累犯加重をなし、更に併合罪の加重をなしたに拘らず、刑法第十四条の適用を遺脱した法令の適用を誤つた違法がある。というにある。
よつて調査するに、まさに、所論のとおりである。しかし、原判決書中適条の後段に李弼武の弼を遺脱している点は、原判文の前後の関係から李弼武なることが看取されるので、違法とするに足りない。又被告人李弼武に対する原判決摘示の前科二を職権を以つて調査するに、同前科は、昭和二十二年二月十三日名古屋地方裁判所において、窃盗、傷害、器物毀棄罪により懲役一年に処せられ、同年三月三日判決確定し、昭和二十四年三月三日右刑の執行を終了したことが、原審で取調べた法務省矯正局指紋係作成の李弼武に対する指紋対照方照会の回答、当審で取調べた検察事務官木村敏光作成の前科調書によつて明白である。従つて、これを本件と累犯関係ありとした原判決には、法令適用の誤があるが、同被告人には、本件と累犯の関係にある原判決摘示の一、三の前科があるので、刑法第五十九条第五十七条により、累犯加重をした刑期には変化がなく、その誤は、判決に影響がない。
次に所論の刑法第十四条を遺脱した点について、按ずるに、同条を遺脱したときは、判決に影響すること明らかな違法がある、との先例(昭和二十五年(う)第一七五八号同年十二月十一日名古屋高等裁判所判決明治四十五年三月二十八日大審院判例)が存するけれども、当裁判所の採らざるところである。
何となれば、同条の制限を超えて量刑した場合であれば格別、その制限内において量刑している以上は、観念的には、同条を適用して、その制限に従つたものと観るのが相当だからである。刑法総則の規定は、必しも、その適用条項全部に亘つて判決書に表示しない点(例えば刑法第十二条、第十三条)に思を致せば、同規定は、適用者を規整するは勿論であるが、これを判決書に表示するを必要不可欠と解することができない。
論者或は、同条の表示がないと、本件の窃盗罪につき累犯加重し、更に併合罪の加重をなした場合、その処断刑が、長期三十年以下一月の間か長期二十年以下一月の間か不明であると批難するかもしれないが、同様の批難は、例えば、殺人罪に有期懲役を選択し、刑法第十二条を表示しない判決書について、その長期が不明であるというと同じであろう。何れも観念の遊戯というの外はない。
従つて、当裁判所は、刑法第十四条を遺脱しても、これを適用していると認められる以上は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤があるとはいわれないと解するので、論旨は理由がない。
(裁判長判事 高橋嘉平 判事 大友要助 判事 伊藤寅男)