大判例

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名古屋高等裁判所 昭和30年(う)827号 判決

按ずるに国民が国家の政治を批判することは自由であること所論の通りである。而して或批判が国家の政治の批判であるか否かは其の文言自体を通じ内容をみて之を判断すべきものと考へる。なるほど本件謄写版刷ビラには日本人をアメリカの傭兵にする為に日本人肉弾化の予算を組もうとしてゐる等の文句が使用されてゐるが其の全文を通読すれば右ビラの内容は国税の納税義務者に対し納税をしないことの決意を生ぜさせ又は実力を行使して国税不納を敢行するような刺戟を与へる文句を記載したものであることは其の記載の内容に徴して明かであるから、之を散布することは納税義務者に対し国税を納付しないことを煽動するものと謂うことが出来る。されば原判決が被告人の原判示所為を以て国税犯則取締法に違反するものと認め同法第二十二条第一項を適用して被告人を処断したのは相当であつて原判決には所論のような判決に影響を及ぼすべき事実誤認又は法令の適用に誤なく論旨は理由がない。

同第三点について

国税犯則取締法第二十二条第一項に所謂煽動とは同条項に掲げる行為の何れかを実行させる目的を以て文書図画又は言動によつて他人に対しその行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じてゐる決意を助長させるような勢のある刺戟を与へることを謂ふものと解するを相当とする。而してこの煽動罪は形式犯に属し右の如き煽動行為のありたることに依つて直に成立し必ずしも相手方に於てその結果を惹起したこと又はその現在且明白なる危険を生ぜしめたことを要しないのは勿論、煽動なる意思表示は相手方に対し認識又は了解され得る程度及方法に於いて為されるを以て足り相手方に於て現実に認識又は了解することをも必要としないものと解すべきである。されば煽動の意思表示が文書によつて為される場合に於いてはその文書を他人によつて閲覧され得るような状態におくに於いては右煽動罪は成立するものと謂わねばならぬ。今本件について之を観るに原判決の挙示する各証拠を綜合すれば被告人は原判示日時岐阜県加茂郡西白川村河岐地内に於て通称蘇原街道及白川街道沿いに散在する同村河岐字小原長部製作所其の他多数民家附近道路上一帯に日本人をアメリカのやとい兵にする税金攻勢を粉砕せよと題し原判示の如く記載したビラ数十枚を散布した事実が認められるので、原判決が斯る所為は表現の自由の限界を逸脱したものであつて不特定多数の国税の納税義務者に対し国税の納付を為さないことを煽動したものとして国税犯則取締法第二十二条第一項を適用処断したのは相当であつて、原判決には所論のような判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤はなく論旨は理由がない。

(裁判長判事 影山正雄 判事 栗田源蔵 判事 石田恵一)

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