大判例

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名古屋高等裁判所 昭和30年(う)967号 判決

労働基準法第三十二条が時間外労働を禁じ、又同法第六十二条が女子の深夜業を禁じているのは、何れも労働者に対する保健衛生上の見地並びに文化的水準の低下を防止する目的にあることは所論の通りであるが、同法第三十二条は使用者は労働者に一日八時間、一週四十八時間を超えて労働させてはならないことを規定し、又同法第六十二条は使用者は女子を午後十時から午前五時迄の間において使用してはならないことを規定し,この規定と右立法の精神とを比照すれば第三十二条違反罪は各労働者一人一日又は一週間につきその規定の制限時間を超えると同時に一罪が成立し、第六十二条違反罪は労働者一人一回につき午後十時から午前五時迄の深夜において使用したとき直ちに一罪が成立するものであつて、各労働者一人につき包括的に第三十二条の時間外労働又は第六十二条の深夜業違反の各一罪が成立するものでないと解するを相当とするから、労働者各一人につき包括的に一罪が成立するものであると主張する論旨は採用できない。

次に論旨は被告人は使用者として加藤鉦一、渡辺平八を通じ包括的意思の下に中山幸子等二十五名をして原判示(同判決添付別紙労働時間表)の通り深夜に跨り時間外労働をさせたものであるから、原判示第一、第二の事実は合せて一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当し、刑法第五十四条第一項前段を適用し科刑上の一罪とすべきであるから、罰金五千円を超えることはできないのに原判決が被告人を罰金一万円に処したのは法律の適用を誤り、かつ量刑不当である旨主張するものであるが、原判決挙示の証拠によれば被告人は田内織布株式会社の常務取締役社長として同会社の事業経営一切を担当する使用者であるところ、加藤鉦一(同会社事務責任者)、渡辺平八(同会社現場責任者)と協議の結果労働者をして深夜に跨り時間外労働をさせることは業務上已むを得ないとし、所謂十二時間交替制を採用することとし、この決定に基き加藤、渡辺は原判示第一、第二の如く時間外労働並びに深夜業をさせたものであることを認め得るから、論旨の如く被告人が包括的意思の下に右加藤、渡辺に対し労働者を深夜に跨り時間外労働をさせることを指示しその細部について迄認識しなかつたとしても、その各労働につき被告人にその責任のあることは当然であり、そして原判示の如く一労働者につき夫々労働基準法第三十二条の時間外労働と同法第六十二条の深夜業とが重なる部分は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当するけれども、前段説明の如く労働者各一人一日又は一回につき一罪が成立し以上は刑法第四十五条前段の併合罪であつて、原判示第一、第二の全行為につき一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当するものということはできないから、原判決が併合罪として刑法第四十五条前段第四十八条を適用し、労働基準法第百十九条が規定する罰金五千円を超える金一万円を以て処断したことは相当であり、記録を精査すれば被告人が労働基準法の規定を無視してまで労働を強化し本件犯罪を犯すに至つたことにつき多少同情すべき事情ありとしても労働基準法の立法精神、同法の規定に違反した労働時間その他諸般の事情を考察すれば原判決の量刑は相当であつて過重のものでなく、論旨は理由がない。

(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)

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