大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和30年(く)3号 決定 1955年3月22日

申立人 山本春子こと呉蓮実

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、抗告人呉蓮実の抗告申立書記載の通りであるから、茲に之を引用する。

凡そ適法に控訴を提起するには、法定の期間内に控訴申立書を判決を受けた第一審裁判所に差出すべきものであることは刑事訴訟法第三百七十三条第三百七十四条の規定に照し疑を容れないところであるから、控訴権を有する者が法定期間内に控訴申立書を控訴裁判所に提出しても、適法な控訴の効力を生ずるに由なきものといわざるを得ない。唯控訴申立書を控訴裁判所に提出したときも、控訴裁判所より廻送された申立書が控訴申立期間内に第一審裁判所に到着した場合に限り、控訴申立の効力を生ずるものと解するを相当とする。本件は抗告人(被告人)に対する覚せい剤取締法違反被告事件につき昭和二十九年十二月十七日岐阜地方裁判所が言渡した有罪判決に対し抗告人から控訴の申立(同年同月二十八日附)をしたものであるところ、該申立書は郵便を以て控訴裁判所たる当裁判所に郵送され、同年十二月三十日当裁判所宿直室において一旦受領したが昭和三十年一月五日岐阜地方裁判所へ回送され、同裁判所は同年一月六日受領したものであることは記録上明瞭である。されば抗告人の控訴の申立はその申立書を差出すべき裁判所を誤り、而も控訴期間内に第一審たる岐阜地方裁判所に受理されたものでないことは明らかであるから、本件控訴は控訴権消滅後に為された控訴であつて不適法なものであつて論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第四百二十六条第一項に則り本件抗告を棄却することとし、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 高城運七 裁判官 赤間鎮雄 裁判官 柳沢節夫)

抗告の理由

一、被告人は法律を知らぬ素人である為め、地方裁判所の判決に対する控訴は高等裁判所宛にするもので、控訴の裁判は高等裁判所でして頂けるものと思つて、代筆して貰つた控訴申立書を名古屋高等裁判所へ持参して提出したのであります、持参したのは確か昭和二十九年十二月二十八日午後でありました。けれどお役所が休務の為め翌年一月四日付で受付になつたものかと思ひます。

二、後で聞けば控訴申立書は裁判を下した岐阜地方裁判所へ出さねばならぬそうでありますが被告人は前記の如く素人である為、控訴の裁判をして下さる名古屋高等裁判所へ提出しなければならぬものと思ひ且つ控訴申立の期間が切れると悪いと思ひ其の期間内に名古屋高等裁判所へわざわざ持参して出したものであります。

三、控訴棄却の決定書によると被告人の控訴申立書が名古屋高等裁判所から回送になつて岐阜地方裁判所が受付けられたのが控訴期間満了後の昭和三十年一月六日であるから其の時は既に控訴権が消滅してあつたと云う意味の事が載つて居りますが、被告人が事実上控訴申立書を名古屋高等裁判所へ出したのが昭和二十九年十二月二十八日でありましたから同裁判所の係官が、その当時被告人の方へ注意して下さるか、又は早速之を岐阜地方裁判所へ回送して頂いて居たならば控訴申立期間内に控訴申立書が岐阜地方裁判所に届いて居た訳であり被告人としては甚だ残念であります。

四、控訴棄却の決定書には被告人の本件控訴は控訴権消滅後の控訴申立であると載つて居りますが被告人は前記の如く控訴期間内に控訴事件を裁判して頂く名古屋高等裁判所へ提出してありますので控訴権消滅後の控訴申立ではないと思ひます、只控訴申立の方式に違反した丈で被告人の前記控訴申立は有効と信ずるのであります(滝川幸辰、平場安治、中武清夫共著刑事訴訟法-日本評論社発行五三一頁御参照)

五、以上の次第で控訴棄却の決定を御取消し賜わりまして被告人の控訴申立の有効なる事を御認め賜わり度いのであります。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例