大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和30年(ネ)319号 判決 1957年8月20日

三重県多気郡三和村大字大淀乙第七百三十七番地

控訴人

合資会社明造商店

右代表社員

橋爪栄一

右訴訟代理人弁護士

窪田稔

右訴訟復代理人弁護士

鈴木貢

名古屋市中区南外堀町六丁目一番地

被控訴人

名古屋国税局長

白石正雄

右指定代理人

宇佐美初男

加藤利一

真弓金二郎

天池武文

右当事者間の昭和三十年(ネ)第三一九号法人税審査決定取消請求控訴事件につき当裁判所は左の如く判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和二十七年二月六日附なしたる審査請求は之を棄却する旨の決定処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示と同一であるから之を引用する。

証拠として控訴代理人は甲第一乃至二十号証、同第二十一号証ノ一、二、同第二十二号証、同第二十三号証ノ一、二、同第二十四、二十五号証、同第二十六号証ノ一乃至五、同第二十七乃至三十号証、同第三十一、三十二、三十三号証ノ各一、同第三十四号証、同第三十五号証ノ一、同第三十六、三十七号証、同第四十一号証、同第四十二号証ノ一、二、同第四十三号証、同第四十四号証ノ一、二、同第四十五、四十六号証を提出し、原審における証人古橋彦作、清水壱良、藤具貞、田口長次郎、橋爪政次の各証言、検証の結果、控訴代表者(当時)中山長太郎訊問の結果、当審における証人清水壱良、吉村次郎、山中兼三郎、岩塚源次郎、中川安太郎、喜多鹿蔵、薗部隆太郎、永野助栄門、中村義太郎、田口長次郎、真弓金二郎の各証言、検証の結果、控訴会社代表者橋爪栄一訊問の結果を援用し、乙第一号証ノ一、二、同第二号証、同第三号証、同第四号証ノ一、二、同第五号証、同第九号証ノ一、二、同第十二号証ノ一、二、同第十四号証ノ一、同第十八号証、同第十九号証ノ一、二、三、同第二十乃至二十四号証の成立を認め、同第十九号証ノ一、二、三、同第二十乃至二十三号証を利益に援用し(但し乙第二号証中昭和二三、八、一四生甘藷9俵、同第四号証ノ二中期末棚卸額、同第九号証ノ二中期末棚卸額の各記載は何れも誤れる記載である)、同第六乃至八号証、同第十、十一十二ノ三、十五、十七号証の成立は不知、同第十三号証、同第十四号証ノ二、同第十六号証、同第二十五号証の成立を否認すると述べ、被控訴代理人は乙第一号証ノ一、二、同第二、三号証、同第四号証ノ一、二、同第五乃至八号証、同第九号証ノ一、二、同第十、十一号証、同第十二号証ノ一、二、三、同第十三号証、同第十四号証ノ一、二、同第十五乃至十八号証、同第十九号証ノ一、二、三、同第二十乃至二十五号証を提出し原審証人古橋彦作、清水壱良、真弓金二郎の各証言を援用し甲第三乃至七号証、同第九号証同第十六乃至二十号証、同第二十四、二十五、二十七号証、同第四十二号証ノ一、二、同第四十四号証ノ一、二、同第四十六号証の成立を認め同第四十五号証は郵便局の消印のみ成立を認めるも其の余は不知、同第七、二十五号証を利益に援用し同第一、二、十号証、同第二十三号証ノ一、二の成立を否認し爾余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

当裁判所の審理によるも控訴人の本訴請求は失当であつて其の理由は左記の外原判決理由と同一であるから之を引用する。

一、乙第十四号証ノ二、乙第十六号証は当審証人真弓金二郎の証言によりて真正に成立したものと認め得る。

二、前記引用事実原判決事実摘示第二、(二)一年計算における醤油売上高(6)(イ)(ロ)、(7)の塩三、一八五瓩を使用し製造せらるべき醤油七十三石六斗五升五合の販売による二十六万八千五百四十六円十三銭の収入について控訴人は右に相当するくらいの醤油モロミが腐敗したので右の如き販売による収入はないと争うのであるがこの点について当裁判所の審理の結果による判断は原審の判断と同様であるが当審において提出された証拠と対比してその理由の説明を左の如く附加する。

(一)  当審における証人清水壱良、吉村次郎、岩塚源次郎、中川安太郎、喜多鹿蔵、薗部隆太郎、永野助栄門、中村義太郎の証言によれば昭和二十三年中控訴人は不良な醤油を販売しその為購買者から返品される有様であつたことが認められるが当審証人田口長次郎の証言によれば醤油は原料のモロミを仕込んでから之を搾るまでには半年以上を要することが認められるから前記昭和二十三年中に販売に出た不良醤油は寧ろその前年度昭和二十二年中に仕込まれた不良モロミやその他の原料から搾られたものが相当あつたであろうと推定される。

(二)  原審及び当審検証の結果によれば控訴人方味噌醤油仕込室には夫々桶番号が附されている大桶八本に腐敗物があつてその総計約九十四石六斗八升五合(但原審検証当時)でありその内一本(原審検証当時その中の腐敗物約十二石三斗六升)は控訴人は味噌の腐敗物でありといい、被控訴人は味噌と醤油モロミの合体物の腐敗物であるという外、他の七本についてはその内容物は何れも醤油モロミの腐敗物であることに当事者間争がない。

(三)  成立に争なき乙第十八号証控訴人の昭和二十三年度醤油仕込調書によればその仕込桶五個について夫々その桶番号が表示されているがこの中には前記(二)の腐敗醤油モロミ若しくは腐敗味噌を包蔵する桶番号の桶は一つもない。

(四)  成立に争なき乙第二十一号証昭和二十三年度醤油製造受払明細書の記載と成立に争なき乙第七号証醤油製造に要する塩の比率とを総合するに右明細書記載の同年度醤油モロミ製造に使用した塩の量、仕込んだ醤油モロミの量、之を搾つた醤油の量及び之が販売量を比較検討するに其処にその仕込醤油モロミ中腐敗物を生じた余地を認むべきものがないのみならず当審証人田口長次郎の証言、控訴会社代表者橋爪栄一訊問の結果によるも昭和二十三年中に新たに仕込んだ醤油モロミ中腐敗に帰したものがあつたとは認められず更にこの点に関し控訴人も原審第六回準備手続において(記録一五九丁)控訴会社は昭和二十三年控訴会社設立当時甲第二十三号ノ二に表示する「粕仕込粕」「粕仕込塩」を訴外橋爪真次から受継いたがその粕の一部が既に腐敗していて腐敗代用醤油モロミとなり使用できなくなつたと陳述している。

(五)  以上を総合するに前記(二)の現存する醤油モロミの腐敗物は昭和二十三年度に仕込んだ醤油モロミの腐敗物ではなくてその前年昭和二十二年度の仕込物の腐敗物であることが認められる。甲第二十一号証ノ二、同第二十四号証も前記の認定を左右するに足りない。

(六)  そこで昭和二十二年度の仕込物で昭和二十三年度に引続いだ醤油原料(成立に争なき乙第一号証ノ二にも醤油.粕三千七百五十貫の引継が記載されている)に対し二番搾りのため昭和二十三年度に塩を投じたものが腐敗したかどうかについて案ずるに当審における控訴会社代表者橋爪栄一訊問の結果によるも同人は昭和二十年八月頃から昭和二十三年秋頃まで控訴会社の前身なる明造商店及控訴会社に引続いて勤務しその味噌醤油の仕込に従事していたものであるが味噌又は醤油の原料物で腐敗に頻した物に塩水を施して救済しようとしたものがいくらかはあつたことが認められるが前記(二)の原料物に昭和二十三年中に如何程の塩を施したものか同証人の証言によりてこれを把握することができない。更に原審及び当審における証人田口長次郎の証言によるも同人は昭和二十三年九月頃から控訴会社の杜氏をしている者であるが腐敗に頻した味噌に塩水を施したり良質の味噌を混入したりして救済しようとしたものが多少はあつたが前記(二)の醤油モロミに昭和二十三年中に塩を施したことが認められない。そこで前記証言と原判決挙示の証拠を綜合すれば前記(二)の如き大量の腐敗の運命にあつた不良な仕込物に昭和二十三年中に三千百八十五瓩なる大量の塩が投下され腐敗のため浪費に終つたというようなことはなく従つて特段の反証なき限りこの塩は醤油製造に効果的に使用され且販売されたものと認めるのが相当である。又前記の塩の中幾分かは醤油原料の腐敗物に空費されたものがあつたとしても右塩の全量使用から推計される醤油製造販売による収入は前記引用せる事実認定の如く二十六万八千五百四十六円十三銭であるのに松阪税務署長の所得決定はそれよりもはるかに低額な十五万四千四百十九円に抑えているのであるから右決定を正当なりと判断することの妨げとならないのである。

仍て本件控訴を棄却すべく民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に従い主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 山田市平 裁判官 県宏 裁判官 小沢三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例