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名古屋高等裁判所 昭和30年(ネ)48号 判決 1955年12月28日

控訴人 青木盛栄

被控訴人 国

訴訟代理人 栗本義之助 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す。控訴人が昭和二十七年三月三十日小牧税務署に提出した昭和二十六年度分所得税修正確定決定申告は無効なることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、昭和二十六年一月一日直所一の一国税庁長宮通達(所得税に関する通達二七〇頁)によれば(1) 債務者に破産又は和議手続の開始、事業の閉鎖、その他これに準ずる事情がある為、回収の見込がつかない場合、(2) 債務者に失踪、行方不明、刑の執行その他これに準ずる事情がある為回収の見込がつかない場合、(3) 債務者に、債務超過の状態が、相当期間継続し、衰微した事業を再興する見通しがない為、回収の見込がつかない場合、(4) 債務者が、天災地変に遭遇し、又は経済事情の急変によつて、資力を喪失した為、回収の見込がつかない場合、(5) (1) -(4) までの事情ある為、回収の見込のない場合その債務者に対する債権は取立不能の債権と見ることができるのであるが、訴外丸已産業株式会社は昭和二十六年末においてはその(営業)成績は不振で債務額金四百万円に対し債権額は金四、五十万円に過ぎずそれも殆んど回収不能の状態で他に資産という程もなく控訴人に対する約金百三十万円の債務はとても支払う能力はなく前社長が借金取に追立てられて逃げてしまつたので磯貝治一が代つて社長になつた始末で右の事実は右通達の(1) 、(2) 、(3) に該当するし、又訴外安本は昭和二十六年末には完全に行方不明になつたので控訴人の同人に対する債権について同通達(2) に該当する事実のあることになる。と述べ、被控訴指定代理人において控訴人主張の通達のあつた事実はこれを認めるが、右訴外者等に控訴人の主張するような事実のあつたことを証明し得る資料を欠くために右通達は適用せられない。と述べた外原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

<証拠 省略>

理由

控訴人が小牧税務署長に対し昭和二十六年度の所得税確定申告書を提出し、更に昭和二十七年三月二十日附でその修正確定申告書を提出したことは当事者間に争がない。

而して所得税修正確定申告は私人のなす公法上の行為にして該行為に対しては民法第九十五条の規定の適用はないものと解するを相当とする蓋し納税関係のような行政上の分野においてはその行為の効果は単に当事者間に止ることなく広く一般に影響を及ぼす結果本件所得税修正確定申告のような当事者の意思を基礎とするものであつても私法の分野におけるように意思主義を撤底することを得ず表示主義によりその外見によつて行為の効果を決すべく若しこれがため生ずる不当は別途に定められた救済手段(例えば所得税法第二七条第六項)による外はないものと考えられる。従つて所得税修正確定申告に要素の錯誤のありたることを前提とする控訴人の本訴請求は爾余の点について判断をなすまでもなく失当としてこれを棄却し、その理由説示はともあれ右と結論を同じうする原判決は結局相当なるに帰し、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、民事訴訟法第三百八十四条第二項、第九十五条、第八十九条によつて主文のように判決する。

(裁判官 山田市平 県宏 小沢三朗)

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