名古屋高等裁判所 昭和30年(ラ)14号 決定 1955年6月22日
抗告人 平田博栄
<外三名>
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告人等は原決定を取消す。本件会社更生手続開始申立を却下する。旨の決定を求めた。抗告理由の要旨は、抗告人等は株式会社中日会館の株主であるが、右会社更生手続開始申立は右会社の発行済株式総数の十分の一以上に当る株式(合計二万四百株)を有する株主等によりなされたところ、その申立人の一人である本田道隆(所有株式数五百株)は昭和二十九年十二月二十日その申立を取下げたので、爾余の右申立人等の所有株式数は右会社の発行済株式の総数の十分の一未満となり、会社更生法第三十条第二項所定の必要条件を欠缺するに至りたるをもつて、右会社更生手続開始の申立は直ちに不適法として却下すべく、仮に一歩を譲りても右申立人の一人である内藤成子(所有株式数五百株)も昭和三十年一月十日右申立を取下げたので、遅くも同日右会社更生手続開始の申立は却下を免れないのに、原審はその措置に出づることなく、昭和三十年一月十二日右会社株主紀平正生外五名(所有株式数合計三千二百株)が右会社更生手続開始の追加申立をなすや、既に失効したる本件会社更生手続開始申立に基き同月十九日午前十時同申立を容認する決定をなしたもので該決定は不当として取消を免れない。というにある。
案ずるに一件記録に徴するに抗告人等が株式会社中日会館の株主なること、本件会社更生手続開始の申立が同会社の発行済株式総数二十万株の十分の一以上に当る株式(合計二万四百株)を有する株主によりなされたこと、右申立人の一人である本田道隆(所有株式数五百株)が昭和二十九年十二月十日その申立を取下げたので爾余の右申立人等の所有株式数は合計一万九千九百株に減じ、右会社の発行済株式の総数の十分の一未満となり、又申立人の一人である内藤成子(所有株式数五百株)が昭和三十年一月十日その申立を取下げたこと、右会社株主紀平正生外五名(所有株式数合計三千二百株)が、昭和三十年一月十二日右会社更生手続開始の追加申立をなしたこと、原審が右各申立に基き同月十九日午前十時同申立に基き右会社の更生手続開始決定をなしたことが明らかである。而して当初適法になされた会社更生手続開始の申立の一部について取下がなされ、爾余の申立人等の所有株式数の合計が会社更生法第三十条第二項所定の会社の発行済株式の総数の十分の一未満となり、右申立の適法要件を欠如するに至つた場合においても右申立の取下をなさない株主等の会社の更生手続を求めんとする意図は依然その侭存続し居ることは明らかであるので、裁判所において右申立を不適法なものとして却下する以前に更に他の株主等よりその追加申立をなして、申立人等の所有株式の合計が右会社の発行済株式数の十分の一以上になつたときは、窮境にあるが再建の見込のある株式会社について、債権者その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更生を図らんとする会社更生法の立法の趣旨に徴するも、右株主等による会社更生手続開始の申立は適法なものとしてこれに基き会社更生手続開始の決定をなしうるものと解するを相当とすべく、これと同旨に出でたる原決定は相当で、一件記録によるも原決定を取消さなければならないような瑕疵も認められないので、本件抗告は理由のないものとして棄却すべく、会社更生法第八条民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条第一項によつて主文のように決定する。
(裁判長裁判官 山田市平 裁判官 県宏 小沢三朗)