大判例

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名古屋高等裁判所 昭和31年(う)1438号 判決

論旨は要するに原判決は採証の法則を誤り且つ法令の解釈を誤つて有罪となるべき事実に付無罪の判決を為した事実誤認の違法があつて其の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであると謂うにある。

記録に徴するに本件起訴状記載の公訴事実は被告人は昭和三十一年二月二十九日午後十二時頃大垣市寺内町五丁目三十二番地丸毛美江子の経営する同市外側町小原橋附近道路上の屋台店飲食店金助に赴き飲食し翌三月一日午前一時頃丸毛美江子を連れて同市高砂町一丁目三十八番地料理旅館業助六旅館事中村直人方に赴き同旅館女中玉置泰世の案内で同旅館二階第二番室に落着き丸毛美江子に同室で一緒に就寝する様に要求したが同女が之を拒絶して同旅館を出て行つたのに不満を抱き同日午前一時三十分頃同旅館二階の廊下西端の袋戸棚の上にあつた中村直人所有の電気スタンドの笠を右廊下に敷いてあつた茣蓙の上に置きその笠に縫付け張つてあつた人絹の布に所持の燐寸で火をつけて之を焼燬すると共にその笠の下の茣蓙に焼け焦げを生ぜしめ以て公共の危険を生ぜしめたものであると謂うにあるのに原裁判所は之を認むべき証拠がなく公共の危険が発生しないものとして之に対し無罪の言渡を為したことは所論の通りである。本件記録に依ると前記公訴事実については原審が該事実関係の証拠として取調べた証拠殊に被告人の検察官に対する供述調書中村直人の検察官に対する第一、二回供述調書玉置泰世の検察官に対する第二回供述調書原審証人中村直人に対する証人尋問調書の各記載の内容を検討し更に当審に於ける証拠調の結果殊に当審検証調書に於ける立会人中村直人の指示説明部分の各記載を参酌すれば是等の証拠を綜合して検察官所論のように起訴状に訴因として記載されている事実即ち被告人は昭和三十一年二月二十九日午後十二時頃大垣市外側町小原橋附近道路上の屋台店飲食店金助事丸毛美江子方に於て飲食し翌三月一日午前一時頃同女を連れて同市高砂町一丁目料理旅館業助六旅館事中村直人方に到り同家二階第二番室に於て右美江子に情交を挑みたるところ同女が之に抵抗して同家を立去つたのに憤激の余り同家二階の廊下西端の袋戸棚の上においてあつた電気スタンドの笠を焼燬して鬱憤を霽らさんことを企て同日午前一時三十分頃右スタンドの笠を右廊下に敷いてあつた茣蓙の上に置きその笠の上に竹と木の細き棒二本をのせその笠に縫付け張つてあつた人絹の布に所携の燐寸を以て点火して之を焼燬し且つその笠の下の茣蓙を燻焦させたのみにて直に消止められたるもその儘放置すれば該家屋を焼燬し大事に至るべき状態を惹起させ因て公共の危険を生ぜしめた事実を優に認めることが出来る。従つて原審が前記の如き電気スタンドの笠の焼燬によつては刑法第百十条にいわゆる公共の危険を生じたものとは認め難いと認定し之に対し刑法第百十条第一項を適用処断しなかつたのは証拠の価値判断を誤り且つ法令の解釈を誤つて有罪を無罪とした事実誤認の違法がありこの違法は判決に影響を及ぼすものと謂わなければならないので論旨は理由がある。

(裁判長判事 影山正雄 判事 石田恵一 判事 水島亀松)

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