大判例

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名古屋高等裁判所 昭和31年(う)472号 判決

原判決がその判示第一及第二の各犯罪事実の関係証拠として挙示する各証拠其の他原裁判所が取調べた証拠殊に被告人の司法警察員に対する昭和三十年五月二十日附供述調書被告人の検察官に対する供述調書及原審第一回公判調書中の被告人の陳述記載部分の内容を仔細に検討し更に当審に於て取調べた証人西部時夫、加藤あやに対する各証人尋問調書及検証調書の各記載を参酌して綜合考量すれば被告人は原判示の如き無軌道なる生活を続けていた為株式会社丸栄からの給料一ケ月約五千余円にてはその生活費が不足し浅井憲夫其の他多数の友人等から金借するに及び数万円の債務を負担してその弁済資金に窮するに至りたるが、一方自宅附近の隣人の間に自己の素行に関する悪評が噂せられ実母から叱責せられるや右悪評は同字から同じ会社に通勤する女店員加藤すま子(当十九年)が流布するものと邪推し、憤怒の情抑へ難く、同女を映画観賞に誘ひその皈途同女を難詰しようと企図し会社の給料支払日である昭和三十年四月二十五日同女と映画観賞に行くことを約束したが、偶々同日前記浅井憲夫外二名から夫々貸金の返還方を迫られたので一時その猶予を乞ひその資金の調達に苦慮していた処、同日午後六時三十分頃名古屋市中区南大津通り松坂屋南口附近に於て加藤すま子と落合い、直に同女を同市中村区日置通三丁目すみれ旅館に伴い同所に於て飲食して少憩の後立出でたが、右すま子が当日会社から支払を受けた四月分給料を其の儘携帯所持して居るものと思惟し遽かに同女を殺害してその所持金を強取しようと決意し、同日午後八時三十分頃すま子を原判示のスタヂアム東南隅土手下に誘致した上同女に対し金員借用方を申込みたるが素気なく峻拒されたので突如同女の上に馬乗りとなり両手を以て同女の頸部を圧扼した上更に死期を早め蘇生を妨げる目的を以て同女がその場に置合せた紙片及布製袋を同女の口腔内に押し込み因て同女を窒息死に至らしめた上同女所有に係る約金七千円雑品数点在中の紙袋一個を強取した事実を明認することが出来る。被告人は原審第五回公判に於て甫めて強盗殺人の犯意を否認しているがその供述は前述各証拠の内容に照し輙く之を措信し難く其の他に右認定を左右するに足る証拠がない。而して原判決に於ける事実認定に依ると被告人は、第一、加藤すま子を映画観賞に誘い其の機会に接吻又は情交関係を為さんことを意図し昭和三十年四月二十五日午後六時過頃名古屋市中区南大津通り松坂屋南口附近に於て同女と落合い直に同市中村区置通りすみれ旅館に赴き同所に於てビールを飲み雑談中、同女に対し接吻を求めたが拒絶されたので、早急に之を為すことを諦めて同旅館を立出でた処、同女から静かな場所で語り合い度い旨申向けられたので、同日午後八時頃同市昭和区鶴舞公園内スタヂアム東端土手下に右すま子を案内し同所に於て雑談中同女が仰向けに寝転んだので劣情をそそられ同女に接吻を求めた処意外にも同女から之を峻拒されたので自己の自惚れを恥入ると共に同女から蔑視されたものと做し同女を極度に怨んだ余突嗟に同女を殺害しようと決意し、同女の上に馬乗りとなり両手を以て同女の頸部を圧扼した上同女の口腔中に同女が其の場に置き合せた同女所有の紙片等を押込み因て即時同所に於て右頸部の圧扼に基く急窒息の為死に到らしめて殺害の目的を遂行、第二、右犯行後同女が前記の如く仰臥していた傍に有合せた同女所有に係る現金約七千円其の他雑品数点在中の紙袋一個を窃取したと謂ふにあるが、被告人は前記認定の如く加藤すま子を殺害した上同女所有の金員を強取しようと決意しその目的を以て同女を犯行現場に誘致して之を実行したものであつて、被告人の金品奪取の犯意は同女に対する殺害行為が完了してから生じたものとは認め難いのである。果して然りとすれば被告人の前説示の如き所為は法律上強盗殺人罪に該当するものと認めるを相当とすべく従つて原判決には此の点に於て事実誤認があり此の誤認は判決に影響を及ぼすこと明白であるから論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

以上説示の理由に依つて原判決は各控訴趣意書記載の爾余の諭旨を判断する迄もなく刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条に則り原判決を破棄し同法第三百九十六条に則り弁護人の本件控訴を棄却するが、本件は原裁判所及当裁判所が取調べた証拠により当裁判所に於て直に判決するに適するものと認めるから同法第四百条但書に則り当裁判所に於て直に判決する。

当裁判所が認めた罪となるべき事実

被告人は昭和二十八年九月頃から名古屋市中区栄町株式会社丸栄に店員として勤務中女色に耽溺し勤務を怠か会社から重用されなくなつたことに不満を感じ昭和二十九年八月下旬会社を無断欠勤して東京方面に赴き遊惰に耽り其の後同年十月初頃父の金五万数千円を拐帯して家出し約二月間北海道方面に逃晦し尚昭和三十年一月頃から有夫の婦と不倫関係を結び数日間和歌山県下に旅行する等無軌道なる生活を続けて居た者であるが之が為会社からの給料一ケ月約五千余円にてはその生活費が不足し浅井憲夫其の他多数の友人等から金借するに及び数万円の債務を負担しその弁済資金に窮するに到りたるが一方自宅附近の隣人の間に自己の素行に関する悪評が噂せられ実母から叱責せられるや右悪評は同字から同じ会社に通勤する女店員加藤すま子が流布するものと邪推し憤怒の情抑へ難く同女を映面観賞に誘いその皈途同女を難詰しようと企図し会社の給料支払日である昭和三十年四月二十五日同女と映画観賞に行くことを約束したが偶々同日前記浅井憲夫外二名から夫々貸金の返還方を迫られたので一時その猶予を乞いその弁済資金に苦慮していた処同日午後六時三十分頃名古屋市中区南大津通り松坂屋南口附近に於て加藤すま子と落合い同女を同市中村区日置通りすみれ旅館に伴い同所に於て飲食した上同日午後七時四十分頃同女と共に同旅館を立出でた処同女が当日会社から支払を受けた四月分給料を其の儘携帯所持しているものと思惟し遽かに同女を殺害してその所持金を強取しようと決意し同日午後八時三十分頃加藤すま子を同市昭和区鶴舞町鶴舞公園内スタヂアム東南隅土手下に誘致した上同女に対し金員借用方を申込みたるが素気なく峻拒せられたので突如同女の上に馬乗りとなり両手を以て同女の頸部を圧扼した上更に蘇生を妨げる目的を以て同女が其の場に置き合せた紙片一枚及布製袋一枚を同女の口腔内に押込み因て同女を窒息死に至らしめた上同女所有に係る約金七千円雑品数点在中の紙袋一個を強取したものである。

証拠の標目(省略)

法令の適用

法律に照すと被告人の判示所為は刑法第二百四十条後段に該当するから所定刑中無期懲役刑を選択して処断すべく原審に於て証人小島茂、浅井憲夫、飯田日出男、平野弘子、横井弘子に各支給した訴訟費用及当審に於て証人西部時夫、加藤あやに各支給した訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条本文に則り被告人をして全部之を負担させることとし主文の通り判決する

(裁判長判事 影山正雄 判事 石田恵一 判事 水島亀松)

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