名古屋高等裁判所 昭和31年(う)790号 判決
記録に徴するに本件起訴状記載の公訴事実は、被告人は朝鮮に国籍を有し昭和二十七年十月二十八日名古屋市南区長より外国人登録証明書の交付を受けた外国人であるが当該外国人は同二十九年九月二十九日より同年十月二十八日迄の間に右登録証明書を居住地の市町村長に返納し新たに登録証明書の交付を申請しなければならないのに拘らず其の頃居住地の名古屋市南区鳴浜町一八〇五番地で同区長に対し右登録証明書の交付を申請しないで前記期間をこえて本邦に在留したものであると謂うにあるが、原裁判所は被告人は登録証明書交付申請について通常人の為し得べき万全の処置をとつていたものでそれ以上適切有効な方法をとるべく要求するのは些か酷に失し本件は期待可能性がない場合に該当するものとして無罪の言渡を為したことは所論の通りである。そこで被告人に果して登録申請義務違反があるか否かを考察すると、原審に於て取調べた総ての証拠を検討し更に当審に於ける証拠調の結果を参酌すれば被告人は昭和二十七年十月二十八日名古屋市南区長から外国人登録証明書の交付を受けたが其の後該証明書は被告人に対する横領外国人登録法違反被告事件の証拠物として裁判所に領置されていた処登録切替期間は昭和二十九年九月二十九日から同年十月二十八日迄であるから右切替期限の約一週間前所轄名古屋市南区役所に赴き係官に相談し其の結果同係官の指示を受けたので自ら又は弁護人を介し裁判所に対し登録証明書の返還又は之に代わるべき書類交付の申請を為す等の措置をとるべきであつたのに斯る挙措に出でなかつた事実を明らかに認めることが出来るので被告人にその責ありと謂わなければならない。然るに被告人が登録申請義務を怠らなかつたものとして之に無罪の言渡を為した原判決には事実誤認の違法がありこの違法は判決に影響を及ぼすものと認められるから原判決は此の点に於て破棄を免れない。論旨は理由がある。
よつて刑事訴訟法第三百八十二条、第三百九十七条に則り原判決を破棄するが本件は原裁判所及当裁判所が取調べた証拠により当裁判所に於て直に判決するに適するものと認めるから、同法第四百条但書に則り当裁判所に於て判決する。
罪となるべき事実
被告人は朝鮮人で昭和二十七年十月二十八日名古屋市南区長より外国人登録証明書の交付を受けた外国人であるが当該外国人は同二十九年九月二十九日から同年十月二十八日迄の間に右登録証明書を居住地の市町村長に返納し新に登録証明書の交付を申請しなければならないのに拘らず肩書住居地に於て所轄名古屋市南区長に対し右登録証明書の交付申請をしないで前記期間を超えて本邦に在留したものである。
(裁判長判事 影山正雄 判事 石田恵一 判事 水島亀松)