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名古屋高等裁判所 昭和31年(け)7号 判決

本件異議申立の理由は申立人の差し出した抗告申立書と題する書面に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

一件記録及び被告人高鳳祥に対する窃盗被告事件の確定訴訟記録を調査し事実関係を按ずるに、被告人高鳳祥に対する右被告事件につき昭和二十六年三月二十三日名古屋地方裁判所岡崎支部は同被告人を判示(イ)の事実につき懲役一年六月に、同(ロ)の事実につき懲役六月に処する旨の判決を言い渡し、同日弁護人たる異議申立人の請求にもとずき保証金を二万円、制限住居を挙母市大字宮口字土井根十六番地と定め同被告人に対し保釈を許可したこと、同被告人から右判決に対し名古屋高等裁判所に対し控訴の申立があつたが、同年十月十八日控訴棄却の判決がなされ、前記判決は同年十一月二日確定したので、検察庁において刑執行のため被告人を呼び出したけれども同被告人は正当の事由なくして出頭せず、逃亡したこと、よつて昭和二十八年三月三十日検察官の請求にもとずき名古屋高等裁判所は刑事訴訟法第九十六条第三項により前記保釈保証金全部を没取する旨の決定をなし、その決定は同年四月十六日被告人に対し書留郵便に付して送達されたこと及び被告人高はその後昭和二十九年二月十日から本刑の執行を受けたが、名古屋高等裁判所は昭和三十一年四月十八日にいたり前記地方裁判所支部に対し前記保釈保証金没取決定の執行の嘱託をなし、同年五月十三日その執行を了したことを認めることができる。

よつて進んで本件申立の理由につき按ずるに、論旨は先ず保釈保証金没取の決定をなすには、被告人高の弁護人であり、且つ右保証金の納付者である異議申立人に意見を述べる機会を与えなければならないのに、本件の場合毫もその機会が与えられなかつたから、没取決定は違法であり、取消を免れない旨主張するけれども、保釈保証金の没取につき所論のような者の意見を聴くべき旨の規定は何処にも存しないから、この点の論旨は理由がない。

次に論旨は異議申立人は被告人のため保釈を請求し、且つ保釈保証金を納付した者であるのに、今日にいたるまでいまだ嘗て保釈保証金没取決定謄本の送達を受けたことがない旨主張するけれども、被告人以外の者が保釈を請求し、又は保釈保証金を納付した場合でも、その保釈保証金の没取決定は被告人に対しこれをなすべく、その裁判書の謄本の送達も被告人にこれをなすことによつて効力を生じ、必ずしも保釈請求者又は保証金納付者に対してまでこれをなすことを要するものではないから、本件の場合没取決定謄本が被告人高に対しその制限住居に宛て書留郵便に付し適法に送達されていること前記認定のとおりである以上、この点に関する論旨も又理由がない。

更に論旨は保釈保証金の没取は刑の執行を担保する趣旨のものであるところ、被告人は昭和二十九年二月十日から本刑の執行を受け既にその刑期を満了したものであるから、その後にいたつて保釈保証金の没取決定の執行手続をなすことは全く理由がなく、従つて本件没取の執行嘱託は速かに取り消さるべきものである旨主張するけれども、刑事訴訟法第九十六条第三項によれば同項所定の場合には検察官の請求により裁判所は必ず保釈保証金の全部又は一部を没取しなければならないものであるから、被告人が刑の執行のため呼出を受けながら正当の事由なしに出頭せず、逃亡したこと前記認定のとおりである以上、裁判所がその保釈保証金を没取したことは正当であり、そしてかように被告人に一旦逃亡の事実があり、適法に保証金の没取決定がなされた以上、爾後該決定は独立の存在と効力とを保有するものというべきであるから、たとえその後にいたつて被告人が出頭し、刑の執行を受け終つたからといつて、これにより右決定が遡つて違法なものとなるべきいわれがないのはもとより、爾後その執行力を失うべきものと解することもできない。それ故裁判所が前記認定のとおり著しく遅れて右没取決定にもとずきその執行の嘱託をしたことは穏当ではないが、それだからといつていまだこれを違法ということはできない。この点に関する論旨も又理由がないものといわなければならない。

(裁判長判事 吉村国作 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)

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