名古屋高等裁判所 昭和31年(ネ)357号 判決 1957年2月22日
控訴人 丹下文男
被控訴人 安井孫助
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人は原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し金十六万三十円十七銭を支払うべし。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上並に法律上の主張は原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
証拠として控訴人は甲第一、第二、第三号証を提出し、原審における証人市川清の証言を援用し、被控訴代理人は甲号各証の成立を認め甲第一号証を利益に援用した。尚原審裁判所は職権で控訴人及び被控訴人の各本人の訊問をなした。
案ずるに、原審における控訴人本人及び被控訴人本人の各供述によれば、被控訴人が昭和二十九年三月頃から従業員二十人位を雇傭する事業主であることが認められるので控訴人はその被傭者として当事者間に争のない被傭の日たる昭和二十九年三月三日より当然健康保険及び失業保険の被保険者たる資格を取得したるものとなすべきところ、その雇主として被控訴人は労働行政面の義務を負担すると共に被傭者たる控訴人につき当該保険事由発生の場合に備えその保険金受領に支障なからしむるため遅滞なくその被保険者資格取得を届出づる私法上の義務を負担するものと認むべきものなるところ被控訴人は昭和三十年九月一日まで右届出義務の履行をしなかつたことは当事者間に争がないとする外、当裁判所の理由説示は原判決理由説示と同一であるから茲にこれを引用する。尤も原判決が控訴人の昭和三十一年一月十日以降同年二月十一日までの三十三日間の失業保険金合計金六千六百円に対する民法所定年五分の割合による金員を金二十九円八十三銭と計算していることは記録上明らかなところであるが、控訴人の受給しうべき失業保険金は原判決説示によれば昭和三十一年一月十七日金千四百円、同月二十四日金千四百円同月三十一日金千四百円、同年二月七日金千四百円、同月十四日金千四百円となることが明らかであるので、同月十一日までに受給しうべき失業保険料の遅延は右一月十七日の分については二十五日、右一月二十四日の分については十八日、右一月三十一日の分については十一日、右二月七日の分については四日となり、従つて原判決の右計算中右の限度を超える部分は誤りであることが明らかであり右のように原判決は違算の上控訴人に過当なる利益を帰しているけれども控訴人の控訴のみにかかり被控訴人において控訴乃至附帯控訴をしていないことが記録上明らかに認められる。本件においてはこれを是正減額するに由ないものと認める。結局原判決は相当なるに帰し、本件控訴は理由のないものとしてこれを棄却し、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条によつて主文のように判決する。
(裁判官 山田市平 県宏 小沢三朗)