名古屋高等裁判所 昭和32年(う)693号・昭32年(う)692号 判決
先ず一乃至三の論旨につき按ずるに、所論のいわゆる不法入国の罪と外国人登録証明書交付不申請の罪及び同証明書書換申請に関する虚偽申請の罪とは互に別個独立の犯罪であつて、右後者が前者の犯罪の当然の結果たる行為としてこれに吸収包含せられるものでないことは多言を要しないところである。そして外国人に不法に本邦に入つた者といえども、外国人登録令第四条第一項所定の登録申請義務があり、不法入国の外国人に対し右登録申請義務を課したからといつて自己の不法入国の罪を供述するのと同一の結果をきたすものということのできないことは既に最高裁判所の判例とするところであり、(昭和三十一年十二月二十六日最高裁判所大法廷判決、最高裁判所判例集第十巻第十二号)右判旨は正当と認められ、且つ前記登録令第四条第一項と規定の趣旨を同じくする外国人登録法第三条第一項に関しても妥当するものといわなければならない。從つて原判決が不法入国後所定の外国人登録証明書の交付申請をしなかつた被告人金敬植の所為に対し右登録法第三条第一項、第十八条第一項第一号を適用処断したことは正当である。所論は独自の見解に過ぎない。論旨は理由がない。
次に四及び五の論旨につき按ずるに、既に不法入国者にも登録証明書交付申請の義務があり、かく解しても不可能を強いるものといえないことは前項に説示したとおりであるから、その証明書の書換申請についても虚偽の申請の許さるべきものでないこと当然である。又外国人登録令施行の際本邦に在留する外国人で同令附則第二項の規定に違反して三十日以内に所定の登録申請をしなかつた者についてはその登録義務を履行するまで不申請罪は継続して成立し、その公訴時効は当該外国人が本邦に在留する限りその登録義務を履行した時から進行すべきことはこれ又最高裁判所の判例とするところであり、(昭和二十八年五月十四日最高裁判所第一小法廷判決、判例集第七巻第五号)右判旨は正当と認められ、且つ右登録令附則第二項と規定の趣旨を同じくする外国人登録法第三条第一項に関しても妥当するものといわなければならない。そして今原判決挙示の証拠を総合すると、被告人金敬植は原判示不法入国以来引き続き外国人登録証明書の交付を申請しないで来たが、昭和二十七年十月末頃人を介し、滋賀県高島郡百瀬村役場吏員に依頼し、当時同役場に柳点水なる外国人の登録原票はありながら、本人が所在不明になつていたのを幸、自己の写真を右原票の柳点水の写真と貼り替えて貰い自ら右柳になりすました上、同年十一月一日登録証明書の書換申請をなし、その後京都市を経て昭和三十年八月三日から名古屋市瑞穂区内に転住するようになつたので、昭和三十一年十一月一日同区長に対し従来どおり自己の写真を添え柳点水になりすまし、原判示第一の二のとおり登録証明書の書換申請をしたものであることをいずれも認定することができる。して見ると、同被告人は自己の登録証明書の交付申請は(仮名でも、本名でも)遂にこれをしなかつたもので、しかも柳点水名義の登録証明書の書換申請をなすに当り虚偽の申請をしているものといわなければならないのであるところ、外国人登録法第十八条第一項第二号は申請義務の有無にかかわりなく同法第十一条第一項その他同号掲記の条項に該当するものとして登録証明書の書換などの申請をするにあたり虚偽の申請をした者をすべて処罰する趣旨であると解するのを相当とするから、被告人の叙上の所為は登録証明書の交付の申請をしなかつた点において同法第三条第一項、第十八条第一項第一号に、虚偽の申請をした点において同法第十一条第一項、第十八条第一項第二号にそれぞれ該当するものであつて、即ち右両罪は本件の場合併合罪として両立し、前者は後者に吸収包含せられるものでないといわなければならない。同被告人が自己の登録証明書の交付申請をしていないこと前記認定のとおりである以上、その不申請罪の時効が進行すべきいわれはない。そして原判決の判示第一の事実摘示及びこれに対する法令適用の趣旨も結局においてこれと同趣旨であつたと認められる。従つて原判決にはいまだ判決に影響を及ぼすことの明らかな擬律の錯誤はない。所論は畢竟独自の見解に過ぎない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 吉村国作 判事 中浜辰男 判事 柳沢節夫)