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名古屋高等裁判所 昭和32年(く)5号 決定 1957年3月06日

少年 A(昭和一三・九・二一生)

少年 B(昭和一三・一〇・一生)

少年 C(昭和一五・一・一三生)

主文

原各決定を取り消す。

本件をいずれも名古屋家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件各抗告の趣意は全少年の附添人弁護士鈴村金一及び少年Aの法定代理人E、少年Bの法定代理人V、少年Cの法定代理人S提出の各抗告理由書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右附添人及び法定代理人(保護者)等の各抗告理由中事実誤認等の点について

しかし、本件記録及び原審取調の各証拠によると、原決定の認定した少年等のD、Fに対する各傷害の犯罪事実を優に認定できる。ゆえに、原各決定が右各犯罪事実を認定し刑法第二百四条をそれぞれ適用したのは正当であつて、原決定には事実誤認及び法令違反はない。各論旨は理由がない。

同抗告理由中黙秘権不告知(法令違反)の点について

少年保護事件の審理に当り少年に対し默秘権の告知を要するか否かについては議論の存するところであるが、少年法には少年保護事件の審理に当り少年に対し黙秘権を告知すべき旨の規定を欠き、また、少年保護事件の審理については少年法に特別の定め(同法第十四条第十五条参照)のない限り刑事訴訟法の一般的準用はないものと解すべきところ、少年法には少年保護事件の審理につき刑事訴訟法中黙秘権の告知に関する第二百九十一条第二項の規定を準用する旨の特別の定めがないから、同審理に当り裁判官において少年に対し黙秘権を告知するを要しないものと解するを相当とする。従つて、本件記録に徴し明らかなように、原審裁判官が本件少年保護事件の審理に当り少年等に対し黙秘権を告知しなかつたからといつて、法令に違反したものとはいえない。各論旨は理由がない。

同抗告理由中処分不当の点について

審按するに、本件記録及び原審取調の証拠に現われた(1)少年A同B同Cはいずれも犯行後深く悔悟反省し堅く更生を誓つており、その人格向上の曙光が認められること(2)各保護者においても誠実を以て関係少年の補導を確約しすなわち、本件を契機としてその保護能力を具有するに至つたことを認め得られること(3)少年等の居町の町長等において地区内における環境の浄化、悪風の除去に力め少年等の指導に当るべきことを誓約しており本件少年等の再犯の虞のないことが側面からも補強せられたこと(4)保護者等と被害者との間に示談解決ができたこと(5)少年等の家庭の状況、以上の諸点並びにその他諸般の事情を総合すると、本件少年A同B同Cをいずれも少年法第二十四条第一項第一号にいわゆる保護観察所の保護観察に付するを相当と認められる。されば、原各決定が右保護措置に出でず右少年等をそれぞれ中等少年院に送致する旨の決定をなしたのは、ひつきよう、妥当を欠きすなわち、少年法第三十二条にいわゆる処分の著しい不当あるものと認める外なく、従つて、原各決定はこの点において取り消しを免れない。すなわち、本件抗告はいずれも理由がある。

よつて爾余の論旨に対する判断を省略し少年法第三十三条第二項前段少年審判規則第五十条後段により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 影山正雄 判事 石田恵一 判事 水島龜松)

別紙一(少年Aに対する原審の保護処分決定)

主文及び理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

少年は、

一、B外数名と共謀の上、昭和三一年八月一七日午後九時三〇分頃愛知県○○郡××町大字△△の△△小学校でD(当時二〇才)に因縁をつけ手拳で一〇回位同人の顔面を殴り付け、よつて同人の左上眼瞼に全治約三日間を要する打撲傷を負わせ、

二、同月一八日午後八時三〇分頃同大字の△△漁業協同組合製氷工場附近道路上でG(当時二四才)に対し、「煙草をくれ。」と言いがかりをつけて拒絶されるや、同人の顔面を殴打して暴行を加え、

三、B外十数名と共謀の上、同月一九日午後八時頃前記製氷工場前の海岸でF(当時一九才)に因縁をつけ、同人の頭部、顔面を手拳で殴打し、よつて同人の下唇粘膜面に全治約一週間の割創を負わせ、

四、昭和二八年八月頃同大字の△△港で作業中のH組の仕事を妨害した際同組経営者の弟K外数名の者から石を投げられて追い払われたことがあるのを恨み、復讐の機を窺つていたが、昭和三一年八月二一日午後九時三〇分頃同大字をB外数名と共に歩いていた折柄、K(当時二五才)を認めるや、ここに少年はB外数名と共謀の上、同大字の字××△△番地附近道路上でKを取り囲み、その頭部、背部等を手拳で数十回殴打し、よつてKの頭、背、左側腹各部に全治約一〇日間を要する挫傷を負わせたものである。

判示一、三、四の各所為は各刑法第二〇四条第六〇条に、同二の所為は同法第二〇八条に該当するところ、少年の人格(特に濃厚な犯罪常習性)不良な家庭環境、保護者の保護能力の欠如、犯罪の動機、犯情及び犯罪後の情状等に鑑み、少年の健全な育成を期するためには少年を少年院に収容して矯正教育を施す必要があると認め、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。(昭和三一年一二月二二日 名古屋家庭裁判所 裁判官 櫛淵理)

別紙二(少年Bに対する原審の保護処分決定)

主文及び理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

少年は

一、A外数名と共謀の上、昭和三一年八日一七日午後九時三〇分頃愛知県○○郡××町大字△△の△△小学校でD(当時二〇才)に因縁をつけ、手拳で一〇回位同人の顔面を殴り付けよつて同人の左上眼瞼に全治約三日間を要する打撲傷を負わせ、

二、A外十数名と共謀の上、同月一九日午後八時頃同大字の△△漁業協同組合製氷工場前海岸でE(当時一九才)に対し、因縁をつけて同人の頭部、顔面を手拳で殴打し、よつて同人の下唇粘膜面に全治約一週間を要する割創を負わせ、

三、C外数名と共同して、同日午後八時三〇分頃同大字の前記組合倉庫東側海岸でM(当時二〇才)に「生意気だぞ。」と因縁をつけ同人の頭部、顔面を手拳で五回位殴打して暴行を加え、

四、かねてAからKに怨があると聞かされていたが同月二一日午後九時三〇分頃同町をA外数名と共に歩いていた際、K(当時二五才)を認めるや、ここに少年はA外数名と共謀の上、同町大字△△字○○○○番地附近道路上でKを取り囲み、その頭部、背部等を手拳で数十回殴打し、よつてKの頭、背、左側腹各部に全治約一〇日間を要する挫傷を負わせ

たものである。

判示第一、二、四の各所為は各刑法第二〇四条第六〇条に、同三の所為は暴力行為処罰に関する法律第一条第一項に該当するところ、少年の人格(特に濃厚な犯罪常習性)不良な家庭環境、保護者の保護能力の欠如、犯罪の動機、犯情及び犯罪後の情状等に鑑み、少年の健全な育成を期するためには少年を少年院に収容して矯正教育を施す必要があると認め、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。(昭和三一年一二月二二日 名古屋家庭裁判所 裁判官 櫛淵理)

別紙三(少年Cに対する原審の保護処分決定)

主文及び理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

少年は

一、A外数名と共謀の上、昭和三一年八月一七日午後九時三〇分頃愛知県○○郡××町大字△△の△△小学校でD(当時二〇才)に因縁をつけ、手拳で一〇回位同人の顔面を殴り付け、よつて同人の左上眼瞼に全治約三日間を要する打撲傷を負わせ、

二、同月一八日午後八時三〇分頃同大字の△△漁業協同組合製氷工業附近道路上でAがG(当時二四才)に対し因縁をつけて殴り付けたのを認めるや、少年もGの顔面を手拳で殴打して暴行を加え、

三、A外十数名と共謀の上、同月一九日午後八時頃前記工場前海岸でF(当時一九才)に対し、因縁をつけて、同人の頭部、顔面を手拳で殴打し、よつて同人の下唇粘膜面に全治約一週間を要する割創を負わせ、

四、B外数名と共同して同日午後八時三〇分頃同大字の前記組合倉庫東側海岸でM(当時二〇才)に「生意気だぞ。」と因縁をつけ、同人の頭部、顔面を手拳で五回位殴打して暴行を加え、

五、かねてAからKに怨があると聞かされていたが、同月二一日午後九時三〇分頃同町をA外数名と共に歩いていた際、K(当時二五才)を認めるやここに少年はA外数名と共謀の上、同町大字△△字○○○○番地附近道路上でKを取り囲み、その頭部、背部等を手拳で数十回殴打し、よつてKの頭、背、左側腹各部に全治約一〇日間を要する挫傷を負わせ

たものである。

判示一、三、五、の各所為は各刑法第二〇四号第六〇条に、同二の所為は同法第二〇八条に、同四の所為は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に該当するところ、少年の人格(特に濃厚な犯罪常習性)不良な家庭環境、保護者の保護能力の欠如、犯罪の動機、犯情及び犯罪後の情状等に鑑み、少年の健全な育成を期するためには少年を少年院に収容して矯正教育を施す必要があると認め、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。(昭和三一年一二月二二日 名古屋家庭裁判所 裁判官 櫛淵理)

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