大判例

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名古屋高等裁判所 昭和33年(う)533号 判決

しかし、原判決挙示の証拠を総合すると、原判示事実の認定を肯認することができる。すなわち、被告人は、判示動機により、判示孫永昌に対する確定殺意および判示孫永昌の妻張仁杓、ほか二名に対する未必的殺意をもつて、判示飯場の居室において、右孫永昌ら四名が雑談中、同居室の床下に仕掛けた判示ダイナマイトを爆発させ、同飯場の板壁の一部を破壊したが、孫永昌ら四名に対してはなんら死傷の結果を与えるにいたらなかつた事実を認定するに十分である。まづ、所論は、被告人の殺意を否認し、被告人としては単に孫永昌を驚かして貸金不払のうつぷんを晴らそうとの意図であつたにすぎないというのであるが、被告人の検察官および司法警察員に対する各供述調書、金奇変の検察官に対する供述調書、および林勝利の検察官に対する供述調書によれば、被告人は警察および検察庁の取調を通じ、一貫して判示殺意を認めておるのみならず、判示犯罪の手段、態様それ自体からしても被告人の殺意を推測するに十分である。本論旨は理由がない。次に所論は、かりに被告人に殺意があつたとしても、現実に使用された判示ダイナマイトの量で、判示場所に装てん点火しても、客観的に人を殺すに足る威力がないので本件殺人行為は不能犯であるというのであるが、西尾峯明の検察官に対する供述調書、司法警察員の実況見分調書、孫永昌の検察官に対する供述調書、張仁杓の検察官に対する供述調書によれば、判示ダイナマイトはいわゆる爆発物であつて、質、量ともに、人を殺傷するに足る威力を有し、これを人の現在する建造物の床下に装てんのうえ点火して爆発せしむる行為は、客観的立場からみて、その人を殺傷する危険性のあることは明瞭であるから、本件行為を目して殺人の不能犯と論ずることはできない。本論旨も理由がない。

次に、所論は、被告人は犯時心神耗弱の状態にあつたものであるといい、また本件は、被告人が孫永昌から殺されるものと思い同人に殺されるよりはむしろ同人を殺して自己の生命を防衛せんがためになされたもので、いわゆる誤想防衛ないし誤想避難行為であるというのであるが、記録を調査しても、原審においてかゝる事実の主張がなされた形跡は認められないのみならず、事後審である当審において、新たにこのような事実を主張することは法の認容しないところである。(記録を調査すると、被告人は原判示のように、病気の夫を入院せしめ、生活扶助、医療援助を受けつつも、子供五人をかかえて働き、十数万円の貯蓄をしているしつかり者であることが認められ、この事実に被告人の当公廷における供述、態度などを併せ考えると、本件犯行当時も現在においても、被告人の精神状態に、いわゆる心神耗弱というべき障害は存在しないものと認める。また西村秋代の検察官に対する供述調書によれば、被告人は本件犯行の直前、すき腹にぶどう酒約一合をのんだことを認められるが、めいていによる心神耗弱状態におちいつたという事実は認められない。次に記録を調査すると、被告人は原判示のように、孫永昌に貸金の請求をした際、同人に殴打せられたり、暴言を吐かれた事実は認められるが、本件犯行当時被告人の生命、身体をおびやかすような孫永昌の急迫不正の行為があつたとは認められず、また被告人において、かかる急迫不正の行為があるものと誤認したという事実も認めるに足りない。)本論旨も理由がない。

(裁判長判事 影山正雄 判事 坂本収二 判事 水島亀松)

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