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名古屋高等裁判所 昭和34年(う)194号 判決 1960年4月14日

控訴人 被告人 後藤延照

弁護人 鈴村金一 外一名

検察官 菅原次麿

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

押収物件中、証第一号の人権擁護委員会会計課作成名義の証明書と題する書面一通及び証第三号の印章一個はこれを没収する。

原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人鈴村金一、同伊藤静男のそれぞれ差し出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

弁護人鈴村金一の控訴趣意第一点について、

しかしながら原判決挙示の各関係証拠を総合すると、優に原判示事実を肯認することができる。論旨指摘の各被害者及び被告人の各供述は所論のような捜査官又は原審裁判官の各先入観にもとずく誘導尋問により誤導された信憑性のない供述であつたとは認められず、被告人が原判示のとおり殊更虚構の事実を申し向けてその旨各相手方を誤信させ、因つて金品を自己に交付させてこれを騙取し、且つほしいままに原判示文書を作成、行使したこといずれも明らかであつて、右被告人の所為がいずれも所論のように心霊術を施行中神がかりの状態において行われたものであるとか、各相手方が所論のように被告人の心霊術を通じてなす操作に対する喜捨として任意に金品を交付したものであるとは到底認められないし、又右行為の当時被告人が所論のようにいわゆる心神耗弱の状態にあつたものとも認められない。原審が被告人の精神鑑定を命じなかつたのはもとより何ら違法、不当ではなく、記録、原審が取り調べた証拠及び当審における事実取調の結果を調査しても、原判決に所論のような事実の誤認があるとは認められない。そして東京都千代田区筆町七番地司法局別館人権擁護委員会会計課なるものは正確には実在しないけれども、原判示同委員会会計課作成名義の証明書は、その形式外観において一般人をして実在する公務所たる右委員会がその職務権限内において作成した公文書であると誤信させるに足るものであると認めるのが相当であるから、被告人が右文書を作成、行使した所為は公文書偽造、同行使罪を構成するものであるといわなければならない。要するに、原判示所為が認められ、これが詐欺、公文書偽造、同行使の各既遂罪を構成するものであること明らかである。所論は畢竟原判決が適法になした証拠の取捨選択、事実の認定を非難するものに過ぎない。原判決には所論のような審理を尽くさず、又は証拠の取捨選択を誤つて事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤つた違法は存しない。論旨はすべて理由がない。

同第二点について、

記録及び原審が取り調べた証拠を調査し、本件犯行の動機、態様、罪質、回数、被害額、被告人の前科等を合せ考えると、原判決の量刑は当時としては相当であつて、所論のように重きに過ぎたものとは認められない。ただしかし原判決の前後にわたり被告人は本件詐欺、横領の各被害者とそれぞれ示談をなし、相当程度被害弁償をなして誠意を示し、被害者又いずれも寛大な裁判のあるより嘆願書を差し出していることが認められるから、これらの事実に被告人の性行、経歴、その他諸般の事情を総合して考えると、原判決の量刑は今日においてはその刑期の点においていささか重きに過ぎるにいたつたものと認められる。原判決はこの意味で破棄を免れない。

弁護人伊藤静男の控訴趣意第一点について、

しかしながら原判決挙示の関係証拠を総合すると、原判示第三の(一)に認定のとおり被告人は北条かをりを欺罔し、よつて同人から現金二十万円を一旦受け取り、しかる後二カ月分の利息として一万六千円を同女に支払つたものであることが認められ、記録、原審が取り調べた証拠及び当審における事実取調の結果を調査しても、右認定に事実の誤認があるとは認められないから、右現金二十万円全額につき詐欺罪が成立し、一万六千円を差し引いた残額についてのみ同罪が成立するものでないこというまでもない。所論は独自の見解に過ぎない。論旨は理由がない。

同第二点について、

論旨は理由はないけれども、原判決が量刑上の理由にもとずき今日破棄を免れないことは鈴村弁護人の控訴趣意第二点に対する判断中に説示したとおりである。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第二項、第三百九十三条第二項により原判決を破棄し、同法第四百条但書により直ちに更に被告事件について判決することとする。

原判決が認定した事実を法律に照らすと、被告人の所為中、詐欺の点は刑法第二百四十六条第一項に、公文書偽造の点は同法第百五十五条第一項に、同行使の点は同法第百五十八条第一項、第百五十五条第一項に、横領の点は同法第二百五十二条第一項に該当するところ、原判示第五の(三)の公文書偽造、同行使、詐欺の所為は順次手段、結果の関係にあるから、同法第五十四条第一項後段、第十条により最も重いと認める偽造公文書行使罪の刑に従い処断すべく、被告人には原判示前科があるから、同法第五十六条第一項、第五十七条によりそれぞれ累犯の加重をなし、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条により最も重いと認める偽造公文書行使罪の刑に同法第十四条の制限に従い法定の加重をなし、その刑期の範囲内において被告人を懲役一年に処し、押収物件中証第一号の人権擁護委員会会計課作成名義の証明書と題する書面一通は原判示偽造公文書行使の犯行を組成したものであつて、何人の所有をも許されないものであり、証第三号の印章一個は原判示公文書偽造の犯行の用に供せられた物であつて、犯人以外のものに属しないから、同法第十九条第一項第一号、第二号、第二項によりいずれもこれを没収し、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により被告人にこれを負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 小林登一 判事 成田薫 判事 中浜辰男)

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