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名古屋高等裁判所 昭和34年(う)666号 判決 1960年4月25日

控訴人 被告人 松隈平

弁護人 星野国次郎

検察官 吉安茂雄

主文

原判決中被告人松隈平に関する部分を破棄する。

被告人を懲役一年六月及び罰金三千円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金三百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人星野国次郎及び被告人本人各提出の控訴趣意書にそれぞれ記載するとおりであるから、ここに、いずれもこれを引用する。

弁護人星野国次郎の控訴趣意第一、二点について、

所論は、原判示第二事実について、先ず、原判示春日井警察署管理の防犯標語記載の木製看板一本を引抜いて道路に置いたのは、原判示水野高明の単独の行為であつて、被告人松隈はこの行為をしていないのは勿論、又この行為について水野と共謀した事実はなく、しかも、この看板を放置した場所は、原判決の認定したように道路中央部ではなく、道路の端、殆んど道路と道路横の田地の境界附近である、といい、次に、同被告人らの原判示第二の所為は、道路交通取締法に触れることのあるのは格別、刑法一二四条一項所定の往来妨害罪を構成するものではない、という。

記録について原判決引用の被告人松隈及び水野高明の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書を検討してみると、同被告人及び水野高明は、昭和三四年五月二四日午前一時ころ、飲酒のうえ帰宅すべく、原判示小牧市大字北外山地内国道上を歩行中、同大字九七六番地舟橋銀五郎方横空地附近に差しかかつた時、被告人の先を歩いていた水野高明が、にわかに右空地西南角に建ててあつた春日井警察署管理の防犯標語記載の木製立看板一本を引抜いて、同所附近の路上に放擲したこと、それは、酔余の水野が、いたずら気分でしたことで、被告人と相談してこの行為に及んだものではなく、被告人としては、水野が該立看板を道路上に放擲して初めて、同人のこの行為を知るにいたつたものであり、その後、被告人も又いたずら気分を起し、水野と共謀のうえ、原判決第二事実記載のその余の行為に出でたものであることが認定できる。そして、記録を精査してみても、被告人が、右木製立看板を引抜いて道路上に放擲した事実について、水野高明と共謀してした事実を認むるに足る証拠は見出せない。次に、記録編綴の犯罪現場写真(記録一一〇丁)及び当裁判所のした検証調書によれば、原判示春日井警察署管理の防犯標語の立看板は、縦〇、九四米、横〇、四一米の木板に長さ〇、九八米の三寸角の支柱が取りつけられたものであるが、右立看板の放置されていた場所、その位置は、原判示国道の西端に近く、上部を南西に向けて南西―北東の方向に該国道上に斜めに放置されていたものであるが、この看板が最も道路中央寄りに出ている支柱先端と道路西端との距離は一、七二米であり、逆に、最も道路西側に寄つた看板上端西角と道路西端との間隔は、僅に〇、〇四米であつて、本件国道の巾員が一一、九米であることに徴すれば、該立看板の放擲されていた場所は、とうてい原判決に認定するように国道中央部ということはできず、むしろ国道西側端部と認めるのが相当である。

さて、以上の点は暫く措き、原判決引用の証拠及び前記犯罪現場写真、当裁判所のした検証調書によれば、原判示第二の(イ)防犯標語記載の立看板、(ロ)「めし中華そば」とある立看板(ハ)「綿毛布かや」とある立看板各一本(ニ)洗濯用「タライ」一個(ホ)足場板二枚の大さ、形状は概ね原判決の認定するとおりであるが(但し、(イ)の防犯標語記載の立看板については、先に説明したとおりであり、(ロ)の立看板は、縦(長さ)一、五一米、横〇、四五米の一寸角木枠に、上部から〇、九米をトタン張りした平板を左右からもたれかけさせて逆V字型に形成されたもので、この看板の高さは一、四七米、左右両脚の間隔は〇、八米である。)、それらは、延長約一、〇〇〇米の間に亘つて点々と放置されたもので、(イ)と(ロ)の間隔は、約二七米、(ロ)と(ハ)の間隔は、約三六〇米、(ハ)と(ニ)の間隔は、約一六〇米、(ニ)と(ホ)の間隔は、約五〇〇米あること、その放置されていた場所は、(ロ)、(ハ)、(ニ)は原判決認定の如く原判示国道殆んど中央部であるが、(イ)は既に説明した如く国道西側端部であり、(ホ)はその足場板の国道路上にはみ出ている部分は、約二、一五米及び一、一五米であることが認定できるのである。

ところで、刑法一二四条は、陸路、水路又は橋梁を損壊又は雍塞して往来の妨害を生ぜしめた者を往来妨害罪として処罰しているが、ここにいう雍塞は損壊と並んで往来妨害の態様として挙げられているものであるが、同罪が構成要件として通路による往来の不能又は具体的危険の発生を必要としていること、雍塞の概念は多義であるが、それが往来妨害の態様として損壊と並記されていることに鑑みるときは、陸路、水路、橋梁の損壊と価値的に同視し得る程度にこれら通路を雍塞する(ふせぐ)ことを要件としているものと解すべく、殊に道路交通取締法二五条、同法施行令六八条が道路において交通の妨害となり又は交通の危険を生ぜしめるような行為をすることを禁止し、その禁止違反の罰則は同法二九条により三千円以下の罰金又は科料とされていて、刑法所定の往来妨害罪の刑と著しく懸隔のあること、(なお刑法一二四条の往来妨害の行為は、その結果人を死傷するにいたらしめる場合のあることも法律は予想している。同条二項参照)等に徴すれば、刑法所定の往来妨害罪は、道路交通取締法所定の交通妨害行為に比べて、前記の如く通路による往来に具体的危険を生ぜしめることを要求しているのは勿論、前者の行為の違法性は、後者のそれにましてより程度の高いものであることが要求されていることを、知ることができるであろう。ところで、本件において、前記(イ)乃至(ホ)の各物件の放置されていた国道は、名古屋市から小牧市を経て犬山方面に通ずる国道四一号線で、昼夜を問わず車馬の往来の極めて頻繁であることは、当裁判所に顕著な事実であるが、該国道は当裁判所のした検証調書に明らかな如く巾員一一、九米のコンクリート舗装の平担な殆ぼ直線道路であつて、前記各物件の形状、大さ及びそれらが右国道上に放置されていた状況が前に説明したとおりであることに鑑みるときは、これらの物件が該国道上に放置された場合、車馬の交通の妨害となる虞れのあることは推知するに難くないところであるが、同所附近を通過する車馬は、僅かな注意を払うことにより、それ程の困難を伴わず、多少の時間をかければ、これらの障害物を回避し、あるいは乗り越え又は取り除いて往来することのできる(特に、前記(イ)(ハ)(ホ)の各物件についてはそうである。)ことも又窺知できるところである。そして、このことは、それが夜間であつて、附近に街燈の設備がなく、該国道を疾走する自動車の高速度である等の諸事情を考慮にいれても同様である。(現に、本件において、前記(ニ)のタライ一個は、同所を通過した自動車により破壊飛散し、(ホ)の足場板については、同所をトラツクを運転して通過した田口操は、該足場板の存在を発見し、同所を少しくう回して通り過ぎている。同人の司法巡査に対する供述調書参照。)してみれば、原判示第二の各障害物を、原判示国道上に放置することは、道路交通取締法にいわゆる道路における交通妨害の行為には該るとしても、未だ刑法一二四条にいう往来妨害の程度には達しないもの、というべきである。果して、然らば、原判決がこれを右往来妨害罪に問擬したことは、法律の適用を誤つたもので、しかも、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものであるから、原判決は、既に、この点において破棄を免れない。なお、被告人松隅が、原判示第二の前記(イ)の立看板の放置行為には関与せず、その余の各物件の放置行為についてのみ水野高明と共謀実行したことは、既に説明したとおりであるが、本件の如く道路交通取締法違反の一罪を構成すべき数個の行為のうちの一部が同被告人が、その余の行為を共同にした共犯者水野の単独犯行であつて、同被告人としては、その部分について共同犯行の事実がなかつたとしても、同被告人が水野のしたその行為(いわゆる先行行為)を知り、その行為の意味を認識しながら、爾後これに続くその余の物件の放置行為(いわゆる後行行為)を水野と共同して行つた限り、同被告人としても、これら物件の放置行為(それは全体として単一の罪を構成する)全体について一罪の共犯者としての責任を免れることのできないものというべきである。

そこで、その余の控訴趣意に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項により原判決中被告人松隅平に関する部分を破棄するが、本件は、原裁判所並びに当裁判所において取り調べた証拠により当裁判所において直ちに判決できる場合であるから、同法四〇〇条但し書に従い被告事件について更に判決することとする。

当裁判所の認定した罪となるべき事実は、原判示第二事実を、被告人松隅平は水野高明と共謀のうえ、昭和三四年五月二四日午前一時ころ、小牧市大字北外山地内幅員一一、九米のコンクリート舗装国道路上において、酔余のいたずら気分から(イ)同大字九七六番地舟橋銀五郎方横空地南西角に建ててあつた春日井警察署管理の防犯標語記載の木製立看板一本(縦〇、九四米、横〇、四一米の木板に長さ〇、九八米の三寸角の支柱を取りつけたもの)を引抜き該国道西側端部に、(ロ)同所から約二七米隔つた同大字七八四番地堀尾鏡方軒下に建ててあつた同人所有の「めし中華そば」とある立看板(高さ一、五米、幅〇、四五米のもの)一本を、(ハ)同所から約三六〇米隔つた同大字九一六番地長谷川梅次郎方軒下にあつた同人所有の「綿毛布かや」とある立看板(高さ一、五米、幅〇、四五米のもの)一本を、(ニ)同所から約一六〇米隔つた同大字一〇〇番地八橋茂方軒下にあつた同人所有の洗濯用「タライ」(直径約一米のもの)一個を、それぞれ該道路中央部に、(ホ)同所から約五〇〇米隔つた同大字六七番地市川祝三方軒下にあつた足場板二枚(内一枚は長さ四米、幅〇、二五米、厚さ〇、〇四のもの、他の一枚は長さ三米、幅〇、一八米、厚さ〇、〇三米のもの)を該道路西側部に、それぞれ立てかけ、あるいは横たえて以ていずれもこれを放置し、道路交通の妨害となる行為をしたと訂正し、証拠の標目中判示第二事実に対し、当裁判所のした検証調書及び司法巡査作成の犯罪現場写真を追加する外原判示摘示の同被告人関係の罪となるべき事実及び証拠の標目と同一であるから、ここにこれを引用する。

(適用法条)

刑法二三五条、道路交通取締法二五条、二九条一項、同法施行令六八条七号、(所定刑中罰金刑選択)、刑法二五二条一項(共犯の点について各同法六〇条を併せ適用する。)、四五条前段、四七条本文、一〇条(懲役刑については、犯情最も重い判示第一の罪の刑について法定の加重をする)四八条一項、一八条一項、刑訴法一八一条一項但書。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 影山正雄 判事 谷口正孝 判事 中谷直久)

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