名古屋高等裁判所 昭和34年(ラ)119号 決定 1959年11月18日
抗告人 熊木四郎
右代理人弁護士 野村均一
同 大和田安春
同 森田和彦
相手方 加藤吉朗
右代理人弁護士 大畑政盛
主文
本件抗告は之を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一、抗告代理人は「原決定を取消す。抗告人及相手方間の名古屋簡易裁判所昭和二七年(イ)第二六一号和解調書に基く別紙目録記載の物件に対する強制執行は之を許さない。申立費用は第一、二審共相手方の負担とする。」との裁判を求めその抗告理由として別紙の通り申立てた。
二、当裁判所の判断
本件記録によれば、抗告人は相手方との間に成立した名古屋簡易裁判所昭和二七年(イ)第二六一号裁判上の和解に対し同裁判所に請求異議の訴を提起すると共に同裁判所に対し民事訴訟法第五百四十七条による強制執行の停止を申立てたところ同裁判所は之を許容し右強制執行の停止決定をなした。而して、更に同裁判所は本案の請求異議訴訟において抗告人勝訴の判決をなし右停止決定を認可し且之に対し仮執行の宣言を附したのであるが、控訴審たる名古屋地方裁判所は右判決を取消し抗告人の請求を棄却する旨の判決をなしたが抗告人は右判決に対し目下上告中で右判決は未だ未確定の状態にあることが認められる。
而して、右の如き民事訴訟法第五百四十七条に基く強制執行停止決定は本案判決の言渡をなすに至るまでその効力を有するに過ぎないこと同条が「判決ニナスニ至ルマデ」と規定するにより明であるが、本件の場合第一審裁判所たる名古屋簡易裁判所が本案判決において右停止決定を認可した上仮執行の宣言を附したのであるから右停止決定は第一審裁判所が判決をなしたる後その確定前においてもその効力を持続することとなつたものと解せられる。然るに、右第一審判決が前記の如く第二審判決により取消されたのであるから停止決定の認可も自然取消されたわけであるがその取消の効力は判決確定に至るまでは確定的には生じないわけである。然しながら前記本案の第一審判決による停止決定認可の効力は右第一審判決の仮執行の宣言により第一審判決言渡後もその効力を持続するに過ぎないこと前記説明により明なるところ仮執行の宣言は第二審の取消判決により直ちにその効力を失うことは民事訴訟法第百九十八条第一項の規定に照し明白である。従つて本案の第二審の取消判決が停止決定の取消の宣言をなし仮執行の宣言を附すると否とに拘らず本件裁判上の和解に基く強制執行の施行については何等の障碍となるべき事項がなくなつたものというべきであるから抗告人が改めて受訴裁判所たる上告裁判所に対し民事訴訟法第五百四十七条に基く停止決定の申請をなしその停止決定を得ない限り抗告人の執行は正当であり本件異議申立は許容すべき限りではない。抗告人援用の判例は本件の如く第一審の仮執行宣言付判決を第二審が取消した案件に適切ではない。
されば右と同一理由により本件異議申立を棄却した原決定は相当であり何等違法の点はないから本件抗告を棄却し民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用し主文の如く決定する。
(裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 奥村義雄)