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名古屋高等裁判所 昭和35年(ツ)20号 判決 1960年12月27日

上告人 控訴人・原告 中梶初治郎

訴訟代理人 吉田耕三

被上告人 被控訴人・被告 小樟漁業協同組合

訴訟代理人 堀江喜熊

主文

本件上告は之を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一、上告代理人は原判決を破棄した上更に相当の判決あらんことを求め、被上告代理人は上告棄却の判決を求めた。而して、上告代理人の上告理由は別紙の通りである。

二、当裁判所の判断は左の通りである。

(1)  上告理由第一点について

上告人は原判決は上告人の先代が本件公有水面埋立のため海中に投入した土砂は民法第二百四十二条の附合の原理によつて当然国の所有となると判示したが本件の場合には附合すべき主たる不動産は存在しないと主張する。然しながら、原判決の確定した事実によれば本件土地は元公有水面であつたところ上告人先代が明治三十四、五年頃自己資金を投じて右水面の埋立工事に着手し明治四十一年頃右工事を完成して現況の土地を作つたというのである。而して、公有水面(その地盤を含む)は国有地であるから海中に土砂を投入して公有水面に従として附合せしめたときは土砂は当然国有に帰するものと解せられる。従つて、上告人主張の如く本件の場合附合すべき不動産なしとなすことが出来ないから上告人の論旨は採用することが出来ない。

(2)  上告理由第二点について。

上告人は原判決は一方において公有水面埋立のために上告人の先代が投入した土砂は附合の原理により当然国の所有に属すると判断しておきながら更に公有水面埋立法第三十五条を援用するのは矛盾であると主張する。

成程公有水面埋立法第三十五条第二項は公有水面埋立免許が失効したときの原状回復義務が免除された場合に関し(無免許埋立の場合は同法第三十六条により右第三十五条第二項が準用せられ本件の場合は無免許埋立の場合なることは原判決の認定するところである。)「前項但書ノ義務ヲ免除シタル場合ニ於テハ地方長官(都道府県知事)ハ埋立ニ関スル工事ノ施行区域内ニ於ケル公有水面ニ存スル土砂其ノ他ノ物件ヲ無償ニテ国ノ所有ニ属セシムルコトヲ得」と規定しあたかも地方長官(都道府県知事)が右の如き処分をなさざる限り土砂其の他の物件の所有権は当然埋立工事施行者に属するかの如く解せられる。然しながら、右規定は固より附合に関する民法第二百四十二条を排除する趣旨ではなく同条の趣旨はむしろ同条所定の場合においては右物件を「無償ニテ」国の所有に帰せしめるところに意味があるものと解すべきである。即ち、同条は埋立の免許の効力消滅したる場合における埋立免許を受けた者及無免許にて埋立をなしたる者については同人等の申請等の事由により公有水面に存する土砂其の他の物件を撤去して原状に復せしめると共に(撤去した土砂其の他の物件の所有権は国か放棄したものと解する。)同条所定の右原状回復義務を免除した場合には事情により右土砂其の他の物件を無償にて国有となし補償をなさざることを得る旨を定めたものと解すべきである。換言すれば同法第三十五条第二項の処分がなされざる限り国は同条第一項の場合においても埋立者に対し民法の規定に従い右土砂其の他の物件につき正当な償金を支払うべき義務があることとなるのである。従つて、原判決には上告人主張の如き矛盾があるということが出来ないから上告人の右論旨は採用出来たい。

(3)  上告論点第三点について。

上告人は公有水面埋立法第三十六条は無免許にて埋立をなした者に対し地方長官(都道府県知事)が公有水面に存する土砂其の他の物件を無償にて国の所有に帰属せしめる処分をなさない限り地方長官(都道府県知事)に対し埋立に関する追認請求権を認めたものであると主張する。然しながら、同条は右の如き追認請求権を認めたものとなすことが出来ない。けだし、公有水面埋立を免許すると否とは原判決も認める如く公益、私益に関すること甚大であり、例令原状回復の必要がなくなつた場合でも前記の如く無免許埋立者の土地其の他の物件を無償にて国有に帰せしめ得るのであるから追認をなすと否とは地方長官(都道府県知事)において右事情を考慮して追認すると否とを決すべきものだからである。而して、本件の場合本件土地が被上告人の前々主保証責任小樟漁業協同組合に払下げられたこと(上告理由は被上告人に払下げというも右の誤解と解する。)は原状回復の必要がなくなつたことを認め得る資料となし得たとしても当然に無免許埋立を追認すべきこととなるものではない。

即ち無免許埋立を追認すれば竣工認可を得て当然埋立地は埋立者の所有に帰することとなるから場合によつては免許しないこともあり得るからである。のみならず本件の場合においては未だ公有水面埋立法第三十五条第二項の処分のなされていることは原判決の認めないところであるから現在の状態においては上告人は国に対し公有水面埋立のための土砂其の他の物件につき民法第二百四十八条の償金を請求をなし得べきものというべきであるから国が本件土地を第三者に売渡したことを以て憲法第二十九条違反の処分となすことが出来ない。されば、上告人の右論旨も採用することが出来ない。

三、以上の理由により本件上告は理由がないから之を棄却し、民事訴訟法第四百九条の三、第三百八十四条第八十九条、第九十五条を適用し主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 裁判官 奥村義雄)

上告理由

第一点原判決には判決に影響を及ぼすこと明な法令違背がある。原判決は附合の原理に依り、上告人の先代が公有水面埋立のため、海中に投入した土砂は当然国の所有に帰することを前提として本件の判断をなしているが、右は民法第二百四十二条の解釈を誤つたものである。即ち不動産の附合については、不動産と附合物間に主従の関係の存在することが必要であるが、本件の場合、附合の基礎となる不動産が存在しないのであるから、附合に関する原理の適用は許されないものと解する(海岸に接して国有地が存在し右国有地に接続して埋立の行われた場合には主たる不動産が存在するので附合の原理を考える余地があるが、本件の場合は考える余地がない)

第二点原判決理由には齟齬がある。

原判決はその前段に於て公有水面埋立のため一私人が投入した土砂は附合の原理に依り当然国の所有に帰すると判断しておきながら、後段に於ては公有水面埋立法第三十五条を持ち出し、同法に埋立の免許の効力が消滅した場合、地方長官が埋立に関する工事の施行区域内に於ける、公有水面に存する土砂、その他の物件を無償で国の所有に属せしむることが出来る旨、規定してあることに依つて、第一段の法理が一層よく理解出来ると説明しているが、同法はむしろ、附合の原理に基き公有水面に投入された土砂が、当然国の所有に帰属しないことを前提としていると解するのが相当であつて理由に齟齬あるものである。

第三点結論

以上の如く原判決は本件公有水面上に上告人先代が投入した土砂は附合の原理に依り当然国の所有に帰属していることを前提として上告人は(1) 右土砂については何等の権利も主張出来ない、(2) 地方長官に対し、埋立の追認を請求する権利すらも与えられない、のだと結論しているが、右結論は法令の解釈を誤つたものであることは前陳の通りである。而して本件については、地方長官が公有水面埋立法第三十五条に基き本件公有水面上の土砂その他の物件を無償にて国の所有に帰属せしめる処分をなしたとの証拠はないのであるから同法の反面解釈として、右土砂は上告人等の所有物件であり、同法第三十六条に基き地方長官に対し埋立についての追認請求をなし得ること明白である。従つて右の法理を否定することは結論として憲法第二十九条違反であると謂わねばならない、凡そ、公有水面の埋立について地方長官の免許がいるのは公益並に種々の私権(漁業権等)について重大な利害関係があるためで、右標準に照し差しつかえがなければ、免許を与えるのが当然であり、又仮に無免許で埋立が行われた場合であつても右埋立について追認をなすべきである、本件については国が本件埋立地域を国の雑種財産として被上告人に売払いしているのであるから公有水面の埋立をなした事は前記標準に照し何等差しつかえのなかつた場合と判断せざるを得ないのである、然るに何等上告人の財産権を考慮することなく、むしろその犠牲に於て本件雑種財産の売払がなされたのであるから、右行政処分はまさに憲法違反と言わねばならない。仍つて原判決破毀のうえ更に相当の御裁判あらんことを求める次第である。

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