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名古屋高等裁判所 昭和35年(ラ)175号 決定 1960年12月07日

抗告人 愛知菓業商工協同組合 代表理事 吉田浜治

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は、「原裁判を取消す。本件競売手続を続行する」旨の決定を求め、その理由として別紙抗告理由書記載のように開示した。

原裁判所が、本件競売手続の取消をなした理由は、本件強制競売の目的たる不動産の最低競売価額は金八二万四七九〇円であるところ右金額によつては「本件差押債権者の債権に先だつ不動産上のすべての負担及び手続費用を弁済して剰余を得る見込がない」というのである。ところで、一件記録によれば、本件競売手続における差押債権者の債権に先だつ不動産上の負担としては、申立外株式会社東海銀行が執行債務者に対して有する、債権極度額を金一三〇万円とする昭和二七年六月一〇日附根抵当権設定契約にもとづく根抵当権だけであつて、右以外は本件不動産上の負担と目すべきものは存在しない。

一般に、根抵当権の債権極度額なるものは、当該根抵当不動産をもつて担保せられる根抵当権者の債権の最高限度を示す丈であつて、それが直ちに、根抵当権者が債務者に対して有する現実の債権額を意味するものでないことは云うまでもない。従つて、右根抵当権の債権極度額が競売不動産の最低競売価額を上廻るからといつて、直ちにそれのみの理由で、競売不動産が差押債権者の債権に先立つ負担を弁済して、剰余なきものと解すべきでないこと明かである。然しながら、執行裁判所の実務上の取扱として、いちおう右根抵当権の極度額をもつて差押債権者の債権に先だつ不動産上の負担額と認め、右金額が根抵当不動産の最低競売価額を超過するときは、民事訴訟法第六五六条一項により差押債権者に対し剰余の見込がない旨を通知し、同条二項所定の申出を待つことは妥当の処置といい得る。そしてこれに対し、差押債権者より根抵当権者の現実の債権額につき疏明の提出があつたときは、裁判所は右により競売手続の取消の要否を判断すべく、もし右疏明資料の提出がないときは、前記債権極度額をもつて現実の債権額とみなし、該極度額が最低競売価額を越える場合、競売手続の取消の裁判をなすべきである。もつとも、執行裁判所が右のような取扱をするときは、差押債権者が根抵当権者の現実の債権額を調査することが困難な場合等に、不都合な事態の生ずることは免れないが、このような場合差押債権者としては、前記第六五六条二項に従い保証を立て執行の続行を求むべきであり、執行裁判所において、進んで差押債権者の便宜をはかり、根抵当権者に対して照会を発し計算書類の提出を促す等、積極的な調査方法を講ずべき義務はないと解すべきである。

従つて、原裁判所が上述するところと同様の見解に立ち、本件競売不動産の最低競売価額をもつて右不動産上の負担を弁済して剰余なき場合と認め、本件競売手続を取消したことは、もとより違法の処置と認め得ず、抗告人の主張は採用し難い。

よつて、本件抗告は理由なきものとして、これを棄却すべく、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して、主文のように決定する。

(裁判長裁判官 石谷三郎 裁判官 山口正夫 裁判官 吉田彰)

抗告理由

債権者愛知菓業商工協同組合債務者八洲建設株式会社を当事者とする名古屋地方裁判所昭和三十五年(ヌ)一〇二号不動産強制競売事件について強制競売開始決定に基き評価鑑定せし処不動産最低競売価格が金八拾弐万四千七百九拾円也にて差押債権者の債権に先立つ不動産上のすべての負担及び手続の費用を弁済して剰余を得る見込なしとの理由にて不動産強制競売取消命令を受けましたが該不動産上の根抵当権者東海銀行の設定しある根抵当権元本極度金額は一日参拾万円也なるも根抵当権の性質からして根抵当権設定金額が必ずしも事実上の債権債務の金額なりとは断定できないのでありますので不動産競売価格が金八拾弐万四千七百九拾円也とて必ずしも東海銀行根抵当権設定に基く実際の債権金額以下の金額にて差押債権者の債権金額に充当すべき余剰なしとは断定できないものであります。抗告人債権者は昭和三十五年十一月一日剰余見込なしとの通知を受けてから根抵当権者東海銀行に対し債務者に対する現在の実際の債権金額の確定したる金額を照合するも回答を得ずそのままと相成つております。

依つて右の理由に依り右の不動産強制競売取消命令は失当であると存じますので茲に即時抗告に及びし次第であります。

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