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名古屋高等裁判所 昭和36年(け)1号 決定 1961年5月30日

主文

本件異議を棄却する。

理由

本件異議の趣旨は申立人代理人塚本義明、林千衛、山田丈夫三名の共同名義をもつて提出された異議申立書に記載されているとおりであるからここにこれを引用し、これに対し当裁判所はつぎのように判断する。

所論は要するに、原決定の認めた申立人に対する上訴費用の補償額のうち、弁護に当つた弁護人三名に支払われた報酬が合計四十五万円であるのに、原決定がその報酬としてわずかに合計十万円しか認めなかつたことは不当だというのであるが、刑事訴訟法第三百六十八条が検察官のみが上訴した場合、上訴が棄却されたときは「上訴によりその審級において生じた費用を補償」すべきものとし、その「生じた費用」には「弁護人であつた者に対する報酬」を含むことは同法第三百六十九条によつて所論のように明であるけれども、その額に関しては刑事訴訟費用に関する法律の規定中弁護人であつた者については「弁護人に関する規定が準用」さるべきことまた同条の明規するところであるから、刑事訴訟費用法第七条第二項によつていわゆる国選弁護人に支給すべき報酬額に準じてその報酬額がきめらるべきものといわねばならない。かように刑事訴訟法は上訴費用の補償について弁護人であつた者に対する報酬は所論のように弁護報酬として現実に支払われた金額を支給すべき建前をとつているのではないから、原決定が申立人の弁護報酬としてすでに支払つた額をそのまま報酬額として認容することなく、国選弁護人に支給すべき報酬額に準じ所論のような事案の難易軽重をも比較衡量して弁護人三名に対する報酬として金十万円と認定したことは相当と認められ、論旨はとうてい採用しがたい。

よつて本件異議の申立は理由がないので刑事訴訟法第四百二十八条第四百二十六条に則りこれを棄却すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 小林登一 判事 成田薫 布谷憲治)

<以下省略>

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