名古屋高等裁判所 昭和37年(う)300号 判決 1962年8月02日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人北村利弥、同小山斉共同名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、当裁判所はこれに対し次ぎのように判断する。
控訴趣意中法令の適用に誤ありという論旨について、
所論は要するに、わが憲法第一四条第一項は国民の法の下における平等を規定しており、同条項の適用はその「国民」という文言からみると日本国民に限られるようであるが、法の下における平等の理念は近代憲法の基本的原理であるから、同条項の精神とするところのものは、内外人を立法その他の国政において平等に取扱うにある。そうだとすると、外国人登録法第一八条第一項第一号、第三条第一項に対応する住民登録法第三一条第一項の違反が五〇〇円以下の過料であるのに、右外国人登録法第一八条第一項第一号、第三条第一項がその罰則として一年以下の懲役若しくは禁錮又は三万円以下の罰金を規定していることは不合理な差別待遇であるから、右の外国人登録法の罰則規定は憲法第一四条第一項の精神に牴触し、このような違憲の法律を適用した原判決には法令の適用を誤つた違法があり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明であるというのである。
おもうに、いずれの国においても国家というものが法体制の基礎となつているのであるから、内外人について若干の取扱を異にすることがあつても、やむを得ないものといわねばならない。わが憲法第一四条第一項もこうした見地から、もつぱら日本国民を対象として法の下における平等を規定したものと解される。しかしながら元来法の下における平等の理念は人類普遍の基本的原理であるから、右憲法第一四条第一項における「国民」という文言にかかわらず、国家と直接関係のないような生活関係については、合理的理由のない限り、内外人を立法その他の国政の上において差別しないことが、憲法第一四条第一項の精神にかなうことはまことに所論のとおりである。しかしながら、そもそも外国人登録法は本邦に在留する外国人の登録を実施することによつて、外国人の居住関係のみならず、その身分関係をも明確ならしめ、もつて在留外国人の公正な管理に資せんとする(同法第一条参照)ものであつて、住民登録法のように市町村における住民の居住関係を明白にしようとする(同法第一条参照)にとどまるものではない。したがつてかくの如く国家に直接関係のある生活関係については、内外人を別異に取扱い、違反行為に対し異つた罰則が定められても、憲法第一四条第一項の精神に反するものではないから、右の外国人登録法の罰則規定は違憲の法律であると解すべきではない。したがつて右法条の違憲を前提とした所論はとうてい採用できない。
控訴趣意中量刑不当の論旨について、
よつて記録を精査するに、被告人はさきに昭和三三年四月二二日大村入国者収容所から韓国へ強制送還されたのに、間もなくまたわが国に密入国し、昭和三四年一月二七日山口地方裁判所下関支部において出入国管理令違反により懲役一〇月に処せられ、再度昭和三五年四月七日大村入国者収容所から韓国へ強制送還されたにもかかわらず、いままたわが国に密入国し来つたものなること、もつとも被告人は日本で生れわが国で教育をうけた者であつて、韓国には身寄りもなく、生活の方途もたたなかつたため、日本に残した妻や母恋しさからあらゆる辛酸をなめてわが国に再度密入国してきたのであるからその心情にはまことに酌むべきものがあるけれども、そもそも被告人が最初前記強制送還をうけるようになつた事情については、被告人が(1)昭和二八年一二月三日名古屋地方裁判所において外国人登録法違反、賍物故買、窃盗罪により懲役一年六月及び罰金二、〇〇〇円但し懲役刑につき執行猶予三年という寛大な裁判をうけながらまたも(2)昭和二九年八月一八日東京地方裁判所において窃盗罪により懲役一年二月に処せられたため、右の(1)の執行猶予の取消をうけ、(2)の罪の刑とともに執行されその結果外国人登録令第一六条第一項第一号により前記のように最初の強制送還をうけるようになつたのであるから、被告人としても自ら招いたその結果についてはまず被告人自身ふかく省みなければならないことその他諸般の情状に鑑みれば所論の各事情を参酌しても、被告人に対する原審の量刑が不当であつてこれを重しとするに足る事由を認め得ないから論旨は採用しがたい。
よつて本件控訴はその理由がないので刑事訴訟法第三九六条に則りこれを棄却することとし主文のとおり判決する。
(裁判長判事 小林登一 判事 成田薫 斎藤寿)