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名古屋高等裁判所 昭和39年(く)5号 決定 1964年3月03日

少年 O(昭一九・一・二六生)

K(昭一九・一〇・一八生)

主文

原決定を、いずれも取消す。

本件を、いずれも名古屋家庭裁判所に差戻す。

理由

本件各抗告申立の趣旨は右両名提出の各抗告申立書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。

(一)  事実誤認の主張について

本件記録を調べると、原決定摘示の各非行事実が十分認められるのであって、各抗告人の主張は理由がない。

(二)  処分不当の主張について

本件記録及び少年調査記録を調べ、当審における事実取調の結果を総合すると、本件各非行の中には強盗致傷の如き重大な犯罪も含まれているけれども、いずれも酔余、通行人との喧嘩が勢のおもむくところ、右非行事実にまで発展したものであって偶発的であり、その態様もさして悪質とはいえず、被害も比較的軽微である。また各抗告人の生立、性行、経歴を見ても本件までは、抗告人Oは昭和三五年に些細な暴行事件を起して広島家庭裁判所で不処分となった外、これという非難すべき点が見当らず、抗告人Kは昭和三八年六月頃自動車の窃盗及び道路交通法違反事件が新潟家庭裁判所に送致された(処分は未定)のみで、他に非行歴がなく、右両名とも、本件まで○○海運株式会社所属の貨物船○○丸の船員として真面目に勤務していたもので、その反社会性は、まだ稀薄であるといわねばならない。

その家庭環境についても、抗告人Oは継父、母、祖母の三人家族で、継父は船員、母は工員として働いており、裕福とまではいえないけれども、平和な家庭を形成しており、継父との折合もよく、両親とも少年に対して深い愛情と関心を有しており、抗告人Kは、両親、兄一人弟一人の家族構成で、いずれも真面目な人柄であり、特に会社員である父は誠実かつ良識のある人物であって、少年の将来について心底から憂慮している。以上の諸事情が認められるのであって、右を考慮すると、右各抗告人の社会適応性を培うためには、これを直ちに少年院に送致するよりも、むしろ家庭に返し、肉親の愛情配慮の下に保護、矯正を計ることが、より適切であると認められる。

従って右各抗告人を特別少年院へ送致することとした原決定の処分は著しく不当であるから、少年法第三三条第二項により原決定を、いずれも取消し、本件を、いずれも原裁判所に差戻すこととして、主文の通り決定する。

(裁判長判事 小林登一 判事 成田薫 判事 斎藤寿)

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